俵万智『チョコレート革命』(河出書房新社 1997)を読む。
デビュー作である『サラダ記念日』から3冊目の歌集である。恋愛、とくに不倫の歌が多いが、ほか海外の貧困や自然環境をテーマにした歌も数多く収められている。
その中で、特に印象に残った歌を拾ってみたい。
(フィリピンのマニラのスラム街にて)
バービー人形を拾える少女はアメリカの離婚家庭の話を紡ぐ
「学校」という語をキャンディーのように発音する子どもたち(インドのカルかったにて)
流暢に英語を話す少女いて年齢知らぬ少年がいて
これらの社会問題について作者はあとがきで次のように語る。
フィリピンのマニラ、そしてインドのカルカッタへの旅では、貧富の差というものをまざまざと見、そして人間の生きる力に圧倒され た。けれど、スローガンは書くまい、と思う。現実的な運動や、直接的な言葉に比べたら、歌を紡ぐことは、遠回りのように見えるかもしれない。が、これらの 体験から得た地球規模の視野を、私は短歌の畑として、耕してゆきたいと思っている。
また、不倫についての歌は数多い。
やさしすぎるキスなんかしてくれるからあなたの嘘に気づいてしまう
会えぬことをむしろ楽しむ心あり結婚願望また遠ざかる
泥棒猫! 古典的なる比喩浴びてよくある話になってゆくのか
今日あったことを告げたき一日の終わりに通じぬ携帯電話
幾千の種子の眠りを覚まされて発芽してゆく我が肉体
子を抱く友と二時間向き合えば我が恋愛は比喩のごとしも