藤原正彦『国家の品格』(新潮新書 2005)を読む。
300万部近く売れたベストセラーである。タイトルだけを目にした限りでは、ありがちな大局的視点から論じる右派的国家論なのかと思っていた。しかし、筆者は、行き過ぎた市場経済至上主義やアメリカ追随型の政治や社会に断固とした反対を唱え、日本古来の武士道や自然観、生命感に学ぶべきだと述べる。民主主義は衆愚政治であり、マスコミに左右される現在の政治を危惧し、日本人の繊細な美意識や教養を身につけた真のエリートが国家の暴走を抑制し、世界に冠たる模範となるべきだと結論づける。株主絶対主義や拝金主義的な風潮など、当時の小泉政権に代表される新自由主義に対して、明確にアンチを唱えている点は共感するところが多かった。
筆者の意見全部に賛成はできなかったが、筆者の強調する「品格」の要素である、食糧自給率の向上こそが日本の独立の存立基盤であるとか、国語力と計算力の徹底、自然に跪く謙虚な心などは是非とも大切にしたいと思った。
現代を荒廃に追い込んでいる自由と平等より、もののあわれなどの美しい情緒、武士道から来る慈愛、誠実、惻隠、名誉、卑怯を憎む、などの形など日本人固有のこららの情緒や形の方が上位にあることを、日本は世界に示さねばなりません。自由、平等、市場原理主義といった教養は、共産主義がそうであったように、いかにも立派そうな論理で着飾っていても、人間を本当に幸せにすることはできないからです。