佐々木賢『当節定時制高校事情』(有斐閣新書 1987)を読む。
「スクールウォーズ」に描かれた80年代前半の学校が荒れていた時代の雰囲気をよく象徴したエピソードがたくさん紹介されている。妊娠中絶や暴走族、シンナーやリンチに万引き、カツアゲ、さぼりなど生徒指導の項目オンパレードである。しかし定時制高校の教師である著者の視線は暖かい。それら全てを自己表現の現れと肯定的に受け止めている。そして返す刀で管理教育、教育の貧困を切る。論調としては「ありがち」な教育批判に過ぎないが、著者の迷いが素直に述べられており好感が持てる。そうしたラディカルな理想論と現実とのギャップに悩む著者のありようは次の引用によく表されている。
(あまりに出来ない生徒を前にして、他教科の試験中に解答をこっそり板書して説明したことについて)おそらくこれはカンニングのせいだろう。テスト最中に答えを教えるのは立派なカンニングだ。この時教師は「ものを教えて評価する」教師ではなく、カンニングの共犯者となっていたのである。中国の文化大革命の頃「カンニングは正しい」とされたことがある。互いに教え合う協力の精神が高く評価されたのだ。カンニングは犯罪なのか、意外に難しい問題なのだが……。