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『学歴フィルター』

福島直樹『学歴フィルター』(小学館新書 2018)を読む。
薄い新書で一気に読み終えることができた。
興味本位的なタイトルであるが,就職コンサルタントを務める著者が,ネットでの応募段階における学歴フィルターや,インターンシップを活用したリクルートの実態を語る。また,上位大学の学生と低選抜大学(Fランク大学)の学生を比べた時,就活に取り組む姿勢やエントリーシートの中身において,明確な差がある点も詳らかにしている。

また,大学の学歴差は本人の能力や努力に帰属するものであり,学歴フィルターは非難するにあたらないという意見もある。著者はそうした意見に対し,教育社会学の観点から,子どもの学力や学歴は親の年収や学歴との相関性が極めて高く,学歴は本人だけの問題ではないと断じる。実際に,日本の偏差値上位5大学と低選抜大学4大学の学生の日本学生支援機構の奨学金受給率の関係を調査したところ,前者は16.9%だが後者は41.2%と倍以上の差が出ている。

形は違えど,学歴フィルターなるものは明治時代から脈々と続いているものであり,すぐに無くなるものではない。著者が最後に,大手企業に限られるが採用結果を見える化する法改正や,就活時期の根本的な改善を提案する。

『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』

下川裕治『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』(新潮文庫 2011)を読む。
かなり厚手の文庫本で読み応えがあった。タイトルにもある通り,ユーラシア大陸を東端のロシアから西端のポルトガルまで,行き当りばったりな鉄道旅行冒険記である。
著者の苦労話よりも,車窓からの風景を描写の方が面白かった。中国の岩石砂漠や中央アジアのとうもろこし畑,ヨーロッパのぶどう畑など,東から西への移動に合わせて農作物も変化していくという点に興味を感じた。

また,途中ロシア南部のチェチェン共和国の独立問題を巡って,隣国のタゲスタン共和国で爆破テロに巻き込まれ,アゼルバイジャンのバクーまでの鉄道移動がストップしてしまう。ローカル鉄道を愛する著者ならではの現地で暮らす住民の視点から国境封鎖やイミグレーションの強化の背景が語られる。

中国の富裕層に合わせて都市の風景が変わっていく新疆ウイグル自治区の中心のウルムチや,トルコとアゼルバイジャンの緊密な関係の裏で,アルメニアとロシアの接近,ヨーロッパ寄りのジョージアの南部にある南オセチアにロシア軍が肩入れする理由,EUに加盟するしか方法がないブルガリアの国情など,読者もローカル電車に揺られながら,ゆっくりと国際情勢について整理することができた。是非他の著作も読んでいきたい。

自転車整備

16インチ自転車の整備を始める。カーズのオリジナルシールの付いたパーツも多いので、走る曲がる止まるの3点につき、最小限の整備に留めたい。

『朱鷺の墓』

五木寛之『朱鷺の墓』(新潮文庫 1978)を30年ぶりに読み返す。
1969年から1978年にかけて雑誌「婦人画報」に連載された作品で,3巻にわたる長編小説である。高校時分に購入した文庫本の奥付に平成2年8月刷りとなっていたので,高校2年生の後半か高校3年生の時に読んだ本である。あまり印象は残っていなかったのだが,当時とは物の感じ方も変わったのか,久しぶりに長編を読み終えた読後感に浸ることができた。

国際政治という荒波に翻弄されつつも,性愛を確かめ合う二人の男女の数奇な人生が描かれる。著者の五木氏がどこかの対談集で述べていたのを記憶しているのだが,「生」は「性」や「政」につながるものだという五木氏の考え方が作品の底流に流れている。国家やら民族やら目に見えない仕組みや壁,運命にぶつかり悩みつつも,一人の人間というスタンスを見据え,逞しく生きていこうとする主人公染乃に勇気をもらうことができた。

それにしても高校時代にこんな本を読んでいたんだと,改めて過去の自分の思考の形成を垣間見ることができた。

『三人姉妹殺人事件』

赤川次郎『三人姉妹殺人事件』(講談社 2011)を読む。
赤川作品を読むのは何年ぶりだろうか。頭を休めるために手にとってみたのだが,読みだしたら止まらず一気に読み終えた。日常の会話体で話が進んでいくので,何も考えずに気楽に読むことができる。確か,中学生の頃に『東西南北殺人事件』という本を読んだ記憶があるが,その時の印象と全く変わらない。

本作はシリーズ物なので,途中よく分からないエピソードもあったが,捜査する側も三姉妹,捜査の対象も三姉妹と,登場人物も多く,殺人事件を巡っての群像劇が展開される。最後は「う〜ん」という感じだったが,途中まで楽しめたので良しとしたい。