月別アーカイブ: 2019年11月

『ロシア人しか知らない本当のロシア』

井本沙織『ロシア人しか知らない本当のロシア』(日経プレミアシリーズ 2008)を読む。
著者はモスクワ生まれのロシア人で,1991年に中央大学の研修生として来日し,02年に日本に帰化している。08年現在,大和総研のビジネス開発部に所属している。

基本的にはロシアでのビジネスチャンスを伺うための入門書であり,食事や休日の過ごし方に始まり,24時間営業の店の業態やローンの利率,不動産価格,税金の支払状況などが詳細に語られる。

確かに原油や天然ガスの輸出で暮らし向きは良くなったが,ウオッカなどアルコール度数の高い酒の大量摂取により,死亡率が上昇し,人口が減少が日本以上に進展しているなどの負の面も語られる。

『東京は郊外から消えていく!』

三浦展『東京は郊外から消えていく!:首都圏高齢化・未婚化・空き家地図』(光文社新書 2012)を読む。
中学校や高校の授業では,都心の過密化に伴う郊外へのドーナツ化現象や,郊外に移転できない低所得者層が都心部周辺に居住するインナーシティ問題,タワーマンションに象徴される近年の湾岸エリアの再開発や都心回帰など,都市型ライフスタイルを公式化された定理のように類型化して学ぶ。

本書では,首都圏を都心3区や城南4区,横浜東部京急線沿線,東急田園都市線沿線,中央線多摩,南武線,さいたま市,埼玉南部など,一都三県を29のブロックに区分し,さらに性別や世代,未婚既婚,子どもの有無,職場との距離や親との同居などでクラスターを分け,それぞれのクラスターの消費行動や地域活動の参加状況について検討を加えている。

著者によると,既存の都心部がチェーン店やショッピングモールによって郊外化され魅力を失っていたり,逆に郊外同士の差異化による新たな魅力が誕生していたりして,人口減少の時代ゆえの新しい首都圏の姿が浮かび上がってくる。最後に著者は次のように述べる。

不動産価格が上昇している時代には,家はどんどん売られていき,結果として住宅地全体としてちぐはぐな,バランスの悪いものに劣化していった。
しかし今後は,不動産価格が低下し,売ってももうからないじだいだからこそ,不動産をコミュニティ全体のために活用するという選択肢が可能になるのである。すぐれた住宅地マネジメント組織が,オールドタウンからゴーストタウンになる危機に瀕した住宅地をゴールドタウンに変えていくなら,日本の住宅地の未来は明るくなっていくであろう。

『父 吉田茂』

麻生和子『父 吉田茂』(新潮文庫 2012)を読む。
著者存命中の1993年に刊行された本の文庫化である。文庫のあとがきには著者の長男の麻生太郎氏が寄稿している。

吉田茂というと「ワンマン宰相」であり,自民党の親父的なニュアンスで巷間伝えられている。しかし,政治的には確固たる信条を持ち合わせており,とりわけ再軍備については「満州事変」の繰り返しになることを恐れ,愚の骨頂だと断じている。ダレス国務長官の再軍備の提案も頑固に突っぱね,米軍の庇護のもとに一刻も早く独立を果たし,経済で勝つ日本を目指した。

また,共産主義嫌いでも知られ,「共産主義に対する,いちばん大きな歯止めが農地改革なんだよ」と繰り返し口にしていたとのこと。地主の所有する代々の土地を強制的に取り上げ,農民に分配するというのは保守政治家の選ぶ政策ではない。しかし,吉田は「農地改革というものをやって,みんながそれぞれ自分の土地をもてるようにすれば,誰も土地を共有のものにしようなどとは思わないはずだ」との目論見で,自由党内からの反対も抑え込んでいる。
そうした彼の政治姿勢に照らしてみると,彼の有名(?)な「若いときに共産主義にならないのはバカだけど,年取ってからなお続いて共産主義であるのはもっとバカだよ」のセリフの意味が分かってくる。

吉田家の養子として育ち,大久保利通の孫娘を嫁に貰いながら,金銭的には相当苦しかったようで,自分の娘の嫁ぎ先の麻生家の援助で政治家人生を食いつないだ人物で,古き良き自民党の政治家だったと思う。吉田が様々な手管で地元の有権者の買収に熱を上げる昨今の政治家を見たらどう思うだろうか。

昭和天皇やマッカーサー,鈴木貫太郎,幣原喜重郎,鳩山一郎,池田勇人,佐藤栄作ら,時代を彩る政治家との私的な交流の場面が興味深かった。しかし,東条英機や岸信介については一言も触れられていない。個人的な確執があったのだろうか。

『アラフォーからのロードバイク』

野澤伸吾『アラフォーからのロードバイクバイク:初心者以上マニア未満の〈マル秘〉自転車講座』(ソフトバンク新書 2013)を読む。
業界大手のスポーツバイク専門店「Y’sRoad」志木店に勤務する著者が,ロードバイクの買い方から,簡単な日々のメンテナンス,上半身のフォームや下半身の使い方などを分かりやすく説明する。この手のロードバイク入門書は写真やイラスト満載の雑誌記事の再編集物が多いが,この本は書き下ろしの新書で写真が1枚も掲載されていない。また,イラストもほんの僅かしか描かれておらず,分かりやすい例えを多用して身体の動かし方や筋肉の動きを説明している。私自身が言葉の人間なので,写真やイラストよりもイメージがしやすかった。そのうちの幾つかを紹介してみたい。

(ロングライドの)ペースの目安は「鼻呼吸で走れるスピード」,あるいは「口をちょっと開くけれど,無理なく走れるスピード」。このくらいが有酸素運動の領域です。

ロードバイクに乗ったから味わえるこの達成感。(中略)160kmくらい走って帰宅,バイクを磨き,シャワーを浴びる。そしてビールを飲み……スーッと意識が飛ぶ瞬間,私は好きです。

(自分で簡単にできるフォーム改良のレッスン法)
①リラックスして直立します。
②「申し訳ございません」と深々とお辞儀しましょう。
③お辞儀をしたまま,肩の力を抜いて,両腕をダラ〜ンとぶら下げます。(この時に肩甲骨を腕の重さで開きます)
④ぶらさげた両腕を脱力したまま,ヒジを軽く曲げてハンドルを握るように両腕を前方へ
⑤両手の力は抜いたまま。このとき眼科にパソコンのキーボードがあれば,軽〜く打てるようなイメージです。
⑥そしてアゴを引いたまま,上目づかいで前方に目を向けます。

ポイントは背中を丸めて骨盤を起こすこと。そのために腹筋(腹直筋)にグッと力を込めてお腹にパンチを食らったように丸みを出します。まずはこれを意識するだけで,カラダの各部分の筋肉が発動するようになります。こうすると,前輪荷重は解除され,グググッと後輪に体重が乗ってくるのがわかります。すると,ハンドルを握る手のひらには力が入らず,まるでピアノでも弾くように指先を動かせるようになります。

(ロードバイクをコントロールする方法)「ビューッと走って,クッ,ガバッ,振り向けばスーッ」ですね。
①上ハンドルに人差し指だけ添える。そしてビューッと走り出します。
②右に曲がるときは,右ヒザを一度クッと内股にして,次の瞬間,右にガバッと開いてガニ股に。
③すると,スッと右に曲がれます。
④このとき後ろを振り向くように右へ顔を向ければ,スッとUターンできます。

オイルをさすのは月に1回,あるいは雨天時の走行の後でOKです。オイルが必要なのはチェーンの内部,表面には必要ありません。1コマずつピンを狙って丁寧にさしていきます。(中略)スプレータイプのオイルの場合は,細いノズルでピンを狙ってプシュッ,プシュッと1コマずつ吹きつけます。

(ロングライドの)最終ステップ3は,1時間走って10分休憩を4〜5回ほど繰り返して,100kmライド。ちょっとつらくなったら巡航速度を少し下げると,ぐんとラクになります。「空気抵抗は速度の2乗に比例」と前述しましたが,「走行に必要なパワーは速度の3乗に比例」します。つまり速度30kmから時速27kmに落とすと,必要なパワーは27.1%も少なくなるのです。

『世界一周デート』

吉田友和・松岡絵里『世界一周デート:怒濤のアジア・アフリカ編』(幻冬舎文庫 2013)を読む。
2005年に刊行された『世界一周デート トモ&エリの607日間ハネムーン』(TOKIMEKIパブリッシング 2005)の改訂本である。タイトルにある通り,結婚式を上げて2週間後に旅立った世界一周旅行で,リアルタイムに更新された旅行記が元となっている。

新婚旅行なので,冒険という感じではないが,チベットやウイグル,タンザニアなど,日本から距離的にも心理的にも遠い国の生活の様子が手にとるように理解できた。旅行記というよりは生活記といった内容となっている。