内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(幻冬舎文庫 2010)を大体読む。
1992年に刊行された本の文庫化である。「つまらない」の一言に尽きる。筆者自身のあとがきでもそのつまらなさを説明している。読者はマンネリを楽しむつもりで手にとっているのに,その期待が「作者の身勝手」な試みによってものの見事に裏切られる。作者は『坊っちゃん』を読んだことがある読者には面白く読んでもらえると推定するが,『坊っちゃん』を読んだことのある諸氏にとっても不快感しか残らない作品であった。
本書『坊っちゃん殺人事件』は僕の作品の中でも特筆すべき異色作となるでしょう。お読みになって分かるとおり,この小説は主人公・浅見光彦のモノローグの形で書かれています。多少なりとも深読みの読者なら,この文体とどこかで出会った記憶があるような印象を持ったのではないでしょうか。
まさにその直観は正しいのであって,『坊っちゃん殺人事件』は夏目漱石の『坊っちゃん』野,いわば「本歌取り」なのです。そのことを踏まえて読んでいただくと,この作品の面白さが一入増すはず――と思うのは,作者の身勝手というものでしょうか。