小林保治訳『今昔物語集・宇治拾遺物語』(現代語訳学燈文庫 1992)を手に取ってみた。
ちょうど宇治拾遺を扱うので、教材研究の一環としてページを開いてみたものの、ここしばらくの肉体的精神的疲れがピークに達しているため、本文は読まずに今昔と宇治拾遺の概略の説明だけ目を通した。その解説の最後にあった「お疲れの折には、説話集を繙いてくつろいで下さい」という一文が妙に印象に残った。
訳者は私の学生時代の中世文学と教育実習演習の担当教員であった。中世文学の方はあまり授業に出た記憶がないが、教育実習演習の方は実際教壇に立って30分ほど模擬授業を行うので、5年間で唯一真面目に出席した講義だった。しかも珍しいことに模擬授業の参考資料として中野重治の詩を取り上げた点を評価されたため、訳者の優しい語り口が朧げながら耳に残っている。
訳者の「お疲れの折には、説話集を繙いてくつろいで下さい」という言葉が、20年という時間を挟んで身に沁みてくる。