渡邉美樹『「戦う組織」の作り方:リーダーの覚悟が、会社をここまで強くする!』(PHPビジネス新書 2009)を読む。
今度東京都知事選に出馬するワタミ(株)会長を務める著者が、自身の経営哲学を存分に語っている。ワタミは外食だけでなく、M&Aで学校経営や病院経営を手がけ、介護や宅配、農業にまで手を伸ばしている成長企業である。そのため著者の渡邉氏も、外資のような効率的なドライな経営を行う敏腕経営者というイメージが強い。しかし、本を読んでみると、年功序列こそ徹底的に否定しているが、部下のしかり方やお客さまの視点に立ったサービスなど、極めて昭和的な日本式経営論となっている。
彼が東京都知事になってどのように東京都職員の気質を変え、東京を変えていくのか見てみたい気がする。少なくとも石原現都知事よりは変化に期待がもてそうである。
会社とは、理念集団である。理念を持った人間の集まりである。(中略)
その集まってくれた人たちを切るというのは、たとえ派遣社員だったとしても、彼らに対する裏切り行為だ。これでは働く人が、会社を信用できなくなってしまうではないか。(中略)
私は「人は経営資源ではない」と思っている。経営学の教科書には、「経営資源とは、ヒト、モノ、カネ、情報のこと」と書かれているが、これは間違いである。
「モノ」「カネ」「情報」は経営資源だから、売上を伸ばしたり利益を上げるために、買ったり売ったり、捨てたり拾ったりしてもいい。
しかし人は経営資源ではなく、会社そのものである。会社と従業員は、同体だと私は思っている。売上や利益を確保するための手段として、買ったり売ったり、捨てたり拾ったりするものではないのだ。(中略)
実は「人は経営資源ではない」という考え方は、昔の日本の企業ならどこでも持っていたものだ。会社の経営が苦しいときでも、できる限り従業員の雇用を守るというのが日本的経営だった。
これが崩れたのは、アメリカ型の株主重視経営の考え方が導入されてからだ。守るべき対象が、社員から株主へと変わってしまったのだ。企業は、株主への配 当金を確保するために、内部留保を重視するようになった。内部留保を増やすためには、人員を削減することで人件費を削る必要が出てくる。つまり株主のために、従業員を切るということが行われたのだ。
しかし時代がどんなに変わったとしても、守るべき優先順位は、株主よりも社員である。なぜなら社員を優先することが、結果的には株主の利益にもなるからだ。