ダニー・ボイル監督『スラムドッグ$ミリオネア』(2008 英)を観に行った。
インドのスラム街で生活する青年が、クイズ番組で2000万ルピーを手に入れるという奇跡的で感動なドラマである。
しかし、映画を観ながら、インドはまだまだ開発途上国であり貧困があるという事実に改めて気付かされた。インドというと、最近では数学教育の成功によりハイテク産業が花開き、シリコンバレーで活躍するインド人の増加や、自動車製造の開始など景気の良い話しか聞かない。しかし、それはインドの一部の姿であり、スラム街がまだ広がっているという現実を、イギリス映画によって気付かされるというのは強烈な皮肉である。
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『グラン・トリノ』
せっかくのGWなので昼過ぎにララガーデンで、クリントイーストウッド監督・主演『グラン・トリノ』(2008 米)を観た。
角川書店の「Movie Walker」というサイトで評判が良かったので、私にしては珍しくスケジュールを確認してから出かけた。
米国の片田舎に住む頑固な退役軍人コワルスキーをクリントイーストウッドが演じる。そして、コワルスキーの隣に住むモン族の姉弟が、妻を亡くし息子と不仲で孤独な独居生活を送るコワルスキーの心を徐々に開いていく。
クリントイーストウッド自身、朝鮮戦争で兵役を経験しており、ヒット作『ダーティーハリー』ではマグナムをぶっ放すシーンが印象的であるが、そうしたイーストウッド自身の過去半生が役柄にも重なっており、印象的な作品に仕上がっている。
びっくりするようなどんでん返しのラストシーンで、ちりばめられた伏線が一気に繋がる、サイトの評判に違わない作品であった。
『神は「憲法」に宿りたまう』
佐高信・福島みずほ『神は「憲法」に宿りたまう』(七つ森書館 2004)を読む。
憲法論議はあまりなく、これまでの佐高氏や福島さんの対談や講演をまとめただけのものである。内容は興味深かったが、企画としては失敗であろう。
佐高氏は社民党の護憲運動について次のように総括する。
例えば、辻本清美問題の記者会見のあとに話していたら、(カタログハウス社長の)斎藤さんから「論理で正しくても、生理に届かないと人は動かない」って言われたんですよ。なるほどなと思いましたね。『週刊金曜日』が出して売れた『買ってはいけない』という本も、生理に届いているんですよね。論理を超えて生理に届くような言葉を生み出さないといけないわけでしょ。あえて言えば、自己批判を含めてだけど、護憲側の運動って論理にとどまっていたんだと思うんです。言葉が生理に届かない。
さっきの南アフリカの話(カタログハウスの『通販生活』に掲載された、「コスタリカにコーヒーを」というコスタリカ憲法を支えようという意図で発せられたスローガン)は、ちょうどそこに踏み込んだかな、っていう感じなんですよね。
そして福島さんは次の言葉で締めくくる。
日本国憲法を六法全書のなかに閉じ込めないで、憲法が息づく社会を作っていくことが、本当に求められています。新しい権利である環境権や知る権利などは、法律(たとえば、環境基本法や情報公開法など)にきちんと入れれば済むことです。新しい権利をダシにして改憲をもくろむのは、全くの筋違いです。憲法の様々な価値をあらゆる場面で生かしていくことを元気にやっていきましょう。
本日の東京新聞夕刊
本日の東京新聞夕刊連載の匿名コラム「大波小波」の文章が印象に残った。
飲んで脱いで騒いで、がもしアイドルでなく作家だったら、捕まって晒されて家捜しされて、とまではいかなかったかもしれない。そもそもの注目度が違うから、ということはあるかもしれないが、しかし、かつて作家はアイドルだった。志賀直哉など有名作家は、新聞にその日一日の行動が載せられていたのだ。だが、彼らが酒癖程度でこれほど批判されたことはないだろう。童話作家のくせに飲めば暴れていたという鈴木三重吉もほほえましい伝説となっている。となれば、何が変わってきたのか。
酒飲みの蛮行を擁護するつもりはない。しかし、蛮行とは何か問うことはできるし、問わねばならない。酒にせよタバコにせよルールは日々厳しくなる一方だが、それはモラルとはなんの関係もない。ルールはこれっぽっちも内面化されず、ただ外側から互いに監視しわれわれを縛る。それはむしろモラルの衰退だ。
かつて作家が作品内だけでも実生活でもルールを破ったのは、スキャンダルを売り物にする芸能人とは違い、モラルを揺るがせ、その本質を問うためだった。とすると今、作家のスキャンダルがあまり話題にならないのは、よいことばかりでなく、モラルというもの全体にとってゆゆしき事態なのかもしれない。
2500年前の中国で展開された、諸子百家の文章を読んでいるような錯覚を覚える。「モラル」を孔子の徳治思想の要である「徳」に、「ルール」を荀子が唱えた法治思想の中心である「礼」に置き換えれば、そのまま論語の世界である。人間とは同じことを延々と繰り返し議論するのが好きな動物なのか。
人気アイドルアイドルグループのメンバーの一人が深酒し、深夜一人で自宅近くの公園で、裸で騒いだだけで逮捕されるという椿事が、マスコミを賑わせたが、これまたおかしな話である。