月別アーカイブ: 2008年2月

『陰陽師:鳳凰ノ巻』

夢枕獏『陰陽師:鳳凰ノ巻』(文春文庫 2002)を読む。
この『陰陽師』シリーズは、「ものさびし」「ものおそろし」「ものかなし」といった平安時代の生活や文化に潜む「もの(何となく)」めいた人間感情が陰陽師によって「呪」や「鬼神」といった形となって現れてくるところに魅力があった。しかし、今回の同シリーズ第4巻は、スケールの大きい妖術対決やらどろどろしたオカルトめいた話が多く、平安朝の微妙な恐怖感や不安感が醸し出されておらず魅力も半減である。

『パークライフ』

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吉田修一『パークライフ』(文春文庫 2004)を読む。
第127回芥川賞を受賞した表題作『パークライフ』と「文學界」1999年8月号に掲載された『flowers』の2編が収録されている。『パークライフ』の方は、日比谷公園という都会のど真ん中の憩いの空間を舞台として、淡々と日常を送る私とふとした偶然で知り合ったスターバックスコーヒーが似合う女性との奇妙な交流が描かれる。
高校時代の淡い恋愛の回想シーンの文章が良かった。「潮騒はすぐにそこにあった」という表現がよい。

気がつけば、ひとりぼくだけがみんなの寝息を聞いていた。横でひかるも眠っていた。少しだけ口を開いてひかるの顔が、月明かりを浴びて青かった。潮騒はすぐそこにあった。

『陰日向に咲く』

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本日もまた、子どもをお風呂に入れて、妻に寝かしつけを頼んで、ララガーデンへいそいそと出掛けた。
劇団一人原作・岡田准一主演『陰日向に咲く』(東宝 2008)を観た。
場面転換が多くて説明的なセリフが不足しているので、途中で話が繋がらなくなってしまったが、V6の岡田准一さんや西田敏行さんらの演技でうまくフォローされており、最後まで飽きることがなかった。
映画を観ながら、人間は未来へと向かって生きているのか、それとも過去へ過去へと向かって生きているのかと、自問自答を繰り返した。経済的社会的に陰の生活を送る劇中人物の姿を見ながら、人間は必ずしも未来の目標や夢に向かって生きるものではない。むしろ過去に犯した失敗や約束、また過去に置き去りにされてきた夢に向かって生きているのでないかと。
陰の世界に生きる大多数の一般庶民は一体何に向かって日々の生活を繰り返すのであろうか。本作のテーマとは外れてしまうが、暗い映画館の観客席に腰掛けながら、大した才能も資産もない自分自身の来し方行く末がふと脳裏をよぎった。

『デスノート』

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2週にわたってテレビで放映された映画『デスノート』(2006)を録画して観た。
先の展開が全く読めないまま、テンポ良く話が進んでいくため一気に観てしまった。国家にだけ許された、正義や秩序、安寧という名の下に人間を殺してしまう究極の権力を個人が持ってしまったらという話である。ある日悪魔から名前を書き込んだ人物は絶対に死ぬという「デスノート」を手に入れた青年が、犯罪のないピュアな社会を取り戻そうと、凶悪犯罪に手を染める人たちを次々に殺していく。悪事を働いた人間を第三者の人間が殺していいのかという哲学的なテーマがかいま見得る。また、善悪の青年ならではの正義感と警察不信、社会犯罪の増加に対する国民の不安など、極めて今日的な日本社会の問題をあぶり出す。

□ 映画『デスノート』公式サイト □