孫玄齢著田畑佐和子訳『中国の音楽世界』(岩波新書 1990)を読む。
執筆当時東京芸大客員研究員を務めていた著者が、日本の音楽と比較しながら、殷周時代から現代に至るまでの中国の音楽状況について論じている。
項羽と劉邦の対立で有名な四面楚歌の場面では、四方から仲間である楚兵の歌を聞き、項羽は「力抜山兮気蓋世 時不利兮騅不逝 騅不逝兮可奈何虞兮虞兮奈若何」と深く嘆じる。国語の教員であるならば、本文の解説よりも「如何」という疑問詞の解説に時間を割いてしまう場面である。しかし、この項羽の言葉は実際はリズムに乗って述べられているのだ。中国語には一語一語に四声の別があり、言葉だけでメロディになるのである。漢詩を扱う際にもできるだけ中国語の持つ旋律について配慮していきたい。
清朝期に宣教師がやってきた後、中国ではベートーベンの「月光」やチャイコフスキーの「白鳥の湖」などの西洋音楽を二胡や馬頭琴などの民族楽器で柔軟に演奏していたが、日本では和楽器で西洋音楽を演奏することはなかったという。言語だと、日本語は柔軟に西洋の言葉を取り入れ、中国語は西洋の言葉を拒絶したが、音楽だと逆になるという指摘は興味深かった。
『中国の音楽世界』
コメントを残す