月別アーカイブ: 2001年11月

『戒厳令の夜』

五木寛之『戒厳令の夜』(新潮社)を十年振りに読み返した。
前半部は大和朝廷からの支配を逃れた「山家」の伝承をフィクション化したものであるが、後半部はガラッと趣を変え、チリのアジェンデ政権の崩壊を内部から描いたものである。高校生の時に読んだときはあまり感動はなかったように記憶しているが、今読み返してみて、特に後半部の1936年のスペイン戦争と1973年のアジェンデ政権崩壊を一つの流れとして捉える視点は面白かった。物語中で、36年のスペインにて人民戦線側として活躍したパブロ・カザルスやピカソらが今度はチリに合法的に選挙で選出された人民連合の応援に回るのだ。しかしその人民連合は資本主義の強大国アメリカの策動につき悩まされ、一方で武装化を計る社会党左派、左翼青年組織を持て余しているという微妙な位置にいる。そしてカザルスやネルーダも人民の側に付きたいという良心をうまく政治的に利用されてしまう。この作品はそうした脆弱なアジェンデの政治的基盤をうまく浮き彫りにしている作品であった。

『パソコン教育不平等論』

渋谷宏『パソコン教育不平等論』(中公PC新書)を読む。
硬直化した既存の学校教育に対してインターネット教育を礼讃するというありふれた内容。古い本であるが、内容的には読むに値せず。しかし一つ、イヴァン・イリイチの『脱学校の社会』から「オポチュニティ・ウェブ」の考えを引いた点が引っ掛かった。現在の教育界におけるインターネットの利用状況から鑑み、イリイチ的な公教育論批判は当てはまらないだろう。