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『下流老人』

藤田孝典『下流老人:一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書,2015)を読む。
さいたま市見沼区で「NPO法人ほっとプラス」の理事を務めている著者が、タイトルにもある団塊世代以上の貧困化だけでなく、その下の世代も貧困予備軍に位置付けられていると警鐘を鳴らしている。

日本における貧困とは「相対的貧困」のことであり、統計上の中央値の半分に満たない所得しか得られない人の割合を言う。2013年の国民生活基本調査では、一人暮らしの場合の中央値が244万円、その半分の122万円未満が貧困状態と言える。全世帯の16.1%が洗濯機やエアコンの故障や壁に穴が空いたまま、月に1度の外食もできないといった人間らしい生活ができないレベルとなっている。

また、「年金のほとんどが家賃に消える」という声が多く、家賃滞納を理由にアパートを追われてしまうこともある。著者は家賃負担の少ない社会住宅や公営住宅を整備するべきだと述べる。
生活保護制度は①生活扶助、②住宅扶助、③医療扶助、④教育扶助、⑤介護扶助、⑥葬祭扶助、⑦生業扶助、⑧出産扶助の8つの扶助をセットで提供する救貧制度で、原則として家賃だけ扶助してほしいという性質の制度ではない。しかし、下流老人を含めた多くの相談者は、生活保護のうち、一部でも別枠で補助してくれたら生活がかなり改善すると話す。生活保護を利用することなく、生活を営むことができるという。

10年前の本であるが、著者は次のようにまとめる。かつて都心の駅周辺の公園等で寝泊まりしていた方々も住宅支援があることで、野宿生活から抜け出してきた。

わたしは、賃金や年金などの収入を上げていくことも大事だが、それだけでは限界があると思っている。支出を最低限抑えても暮らせるようなモデルをつくらなければならない。そして収入を上げる政策だけでなく、支出を減らす政策を実行していくほうが現実的だろうとも考えている。(中略)
なかでも生活保護の住宅扶助は利用しやすくしていきたい。国家公務員用の宿舎や大企業が提供する社宅などが明らかに生計を助けるように、家賃の全部か一部でも公的に負担してくれたら、生活が安定していくことだろう。

『テレビとのつきあい方』

佐藤二雄『テレビとのつきあい方』(岩波ジュニア新書,1996)をパラパラと読む。
1996年1月の刊行なので、Windows95が普及する直前の頃の話で、ネットについてはほんの一言すらも登場せず、テレビが即時性や同時性、娯楽性でチャンピオンだった頃の話である。即時性・同時性が強いために、間違った情報や偏見を含んだ報道の拡散も早く、取り返しのつかないほどのダメージを与えることもある。オウム事件報道なども紹介されており、テレビの持つ諸刃の剣の怖さが丁寧に説明されている。

『ブータン、これでいいのだ』

御手洗瑞子『ブータン、これでいいのだ』(新潮文庫,2016)を読む。
著者の御手洗さんは、東京大学を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2010年9月より1年間ブータン政府の首相フェローとして、産業育成のアドバイスを行っている。本書ではその時の経験が綴られている。現在は宮城県気仙沼で手編みのセーターやカーディガンを販売する事業を立ち上げている。

ブータンというと、1970年代にジクメ・センゲ・ワンチュク第四代ブータン国王が提唱した「GNH(国民総幸福量)」が知られている。モノやお金の多少ではなく、国民が実感できる幸せが大切だという指標である。隣国ネパールと同じく、貧しいけど心のゆとりを持っている国というイメージが強い。

しかし、2025年の一人当たりのGNIだと、213カ国中、1位のモナコは26万ドル、9位の米国は8万ドル、日本は37位で3万6,000ドル、そしてブータンは148位の3,600ドルとなっている。これは同158位のバングラデシュの2600ドル、160位のインドの2500ドルを上回り、181位のネパールの1,400ドルの2倍以上となっている。

そのため、ブータンにはインドからの出稼ぎ労働者が多数暮らしている。また、急勾配のヒマラヤ山脈を流れる雪解け水を生かして、水力発電所が作られている。2021年末時点で、ブータンの総発電量155,925.81GWh(ギガワット時)のうち117,715.31GWhをインドに輸出している。インドへの輸出量は、発電量の75.5%を占めている。

また、外交もうまく、中印の国境紛争を利用して、文化的にインドとの関係を重視し、インドによる中国との防波堤になることの支援を引き出している。また、チベット仏教を国教とするブータンは、チベットへの弾圧を強める中国と、ダライ=ラマ14世の亡命先となっているインドとの対立をうまく利用している。米国ベッタリの日本も見習うべきところである。

『中学生時代』

林友三郎『中学生時代:勉強・生活・進路』(岩波ジュニア新書,1983)をパラパラと読む。
著者は1923年に東京で生まれ、東京大学文学部哲学科を卒業され、1949年から東京都の中学校で英語を教えるとともに生活指導についての研究もされてきた方である。1947年(昭和22年)に新制中学校が設立され、著者は新制中学校の完成の年から教壇に立っている。そのため、テストや部活動、班活動、文化祭など、中学生の成長にどのような意義があるのか、一つ一つ丁寧に意味付けされている。

全45の項目で構成されているのだが、第2項で夜間中学校に触れているのが印象に残った。夜間中学の取り組みを紹介する中で、学習する権利を十分に行使することが、人生を彩豊かなものにし、民主主義を育むのだと断定する。

また部活動では次のように述べる。参考文献で日教組(当時)の資料なども参考にされているが、部活動は人間形成に大切な活動だが、「1日のうち1時間ぐらい」と述べるのは先見の明がある。

中学生時代にはじまる青年期は一生のうちでももっとも心身の成長がいちじるしく、やる気さえおこせばなんでもやれるエネルギーにみちている時期です。この時期に自分の特長や興味を生かした活動を思いきりやっておくことは人間形成の上でもたいせつなことですし、将来の進路の選択にも思わぬ良い影響を及ぼすことさえあります。また、一日のうち一時間ぐらいはぐっしょり汗をかいてスポーツや労働に精を出すことは精神的な健康のためにも必要なことです。

『EUの地理学』

佐々木博『EUの地理学』(二宮書店,1995)をパラパラと読む。
大学のテキストで使っていたのであろうか。ヨーロッパ共同体(EC)の成立に始まり、地形や気候、植生、言語、宗教、第一次・第二次・第三次産業のあらましが教科書風に説明されている。ちょうど地理探究の教科書の地誌の項目の深掘りのような内容である。

スコットランドは北大西洋海流の影響で降雨量が多い。熱帯低気圧(台風)が来ないので、激しく降ることはないが、降ったり止んだりが続く。偏西風の影響で西部や高地で雨が多くなる。ゴルフ発祥の地にふさわしく、牧草や芝草がたくさん生い茂っている。また、夏季に成長した草が気温が低いため腐食せず、そのまま炭化してビート(泥炭)を形成することになる。ビートは夏季に掘り起こして乾燥させ、家庭用の燃料としたり、ウイスキー醸造用に使われる。

イタリアの降水量は平均830mmほどで日本の約半分である。イギリス西部の年間降水量は1000〜2000mmとなっている。アルプスの南北の気候の違いは、「アルプス以北の木の文化、アルプス以南の石の文化」という言葉で例えられる。

ヨーロッパの偏西風の影響は強く、東ヨーロッパ・ロシアまで到達する。有名なところでいうと、ハンガリーである。北海道と同じ緯度帯で内陸に位置するが、温暖湿潤気候となっている。5月・6月の初夏に雨が降るので、プスタのような草原が形成されることになった。ちなみにプスタの地域は元々広大な森林が広がっていたが、オスマン帝国に領有されている時に木々が伐採され、湿帯草原へと変わっていったとのこと。

インド・ヨーロッパ語の中で、主要なものはゲルマン・ロマンス(ラテン)・スラブの三大言語族である。
ロマンシュ語はラテン語を起源とするロマンス語の一種である。カトリックは主にアルプス以南のロマンス語圏と、プロテスタントは主にゲルマン語圏と地域的には一致しているが、ドイツでは南部がカトリックであり、オーストリア・ポーランドなどもカトリックであるように、言語と宗教が必ずしも対応関係にあるわけではない。