近藤信行『登山入門』(岩波ジュニア新書,1982)をパラパラと読む。
著者は登山の専門家ではなく、登山関係の著作も多い文芸評論家である。そのため登山の際の装備や地図の読み方、岩登りの技術といった実技的な内容だけでなく、登山の歴史や古くは万葉集にみられる山の叙情などについても詳しく書かれている。
現在は登山というと、観光や健康という側面が強いが、ロッククライミングのようなタイムを競うスポーツ競技も含まれる。こうしたスポーツクライミングの原点は、19世紀半ばの大英帝国時代のアルプス山脈攻略に始まる。イギリスを中心に19世紀後半には、アラスカや南米大陸、カフカス、ヒマラヤ、カラコルムや中央アジア、アフリカなどに遠征が試みられるようになる。なかでも、当時のインドはイギリスの統治下であり、ヒマラヤ山脈にはイギリスの登山家だけでなく、欧州各国の探検隊や、軍人や科学者まで送り込まれ、やがて無酸素登山や岸壁直登のアドベンチャ時代へ受け継がれていく。