石弘之『キリマンジャロの雪が消えていく:アフリカ環境報告』(岩波新書,2009)を読む。
タイトルだけ読むと、地球温暖化がテーマの環境問題の啓発かと思うが、気候変動だけでなく、人口増加や経済格差、天然資源、農業問題など多岐にわたるテーマでアフリカの貧困にアプローチしている。著者も朝日新聞編集委員を経て、駐ザンビア特命全権大使や国連環境計画(UNEP)上級顧問を務めるなど、実際にアフリカで生活をする中で、アフリカの困難な状況を分かりやすく伝えている。
タイトルにもあるキリマンジャロの山頂氷河であるが、地球温暖化ではなく、乾燥化が大きな原因であるとの研究もあるようだ。ドイツの地質学者ハンス・メイヤーの研究グループは、たとえ気温が上昇しても、頂上の気温は常に0度以下のために氷の融解は起こらないと主張している。シュミレーションの結果、氷河の容積減少の65%までが、氷が直接蒸発する昇華によって起きているという。
スラムという言葉は、19世紀にロンドンで使われるようになったという。職を求めて都会に出てきた労働者が集まった貧困地域のことだった。サハラ以南のアフリカはスラムの爆発地点である。都市人口に占めるスラム人口の割合は71.8%に達し、南アジアや東アジアを大きく引き離している。アフリカの最大のスラムは南アフリカのソウェトである。South-Western Town-shipsの名の通り、ヨハネスブルクの南西に位置する。ネルソン・マンデラ元大統領もソウェトの住人であった。
アフリカ大陸では1960年代末ごろから干ばつの頻度が激増している。この背景には森林破壊があり、保水力を失った森林が「緑のダム」の役割を放棄し、雨が少なければ干ばつ、多すぎれば洪水を引き起こすため、同じ国で干ばつと洪水が同時に被害を出すことさえある。
過去30~40年間、アフリカでは何百万人もが、人口増加、土壌汚染、自然災害、紛争などのために、乾燥地や高地、湿地など生態系の脆弱な土地への避難や移動を余儀なくされている。そうした避難民が住み着くことで、砂漠化や土壌侵食、生物多様性の喪失など新たな環境問題を引き起こすことになった。こうした連鎖的に発生する環境難民の8割はアフリカに集中している。
石油やダイヤモンドの陰で目立たないが、木材の違法伐採や違法取引も横行する。マホガニーやマコレといった熱帯産の硬材は、構造材や窓枠、扉枠、家具材、額縁材などに用いられる高級材である。貧困層の多いアフリカでは、違法木材の取引が紛争の資金を支えることもある。
2009年以降、現在も日本が自衛隊を派遣しているソマリアの海賊行為であるが、グリンピースは外国船による魚の略奪と汚染こそが「海賊行為」だと非難している。ソマリアはアフリカで最長の3200キロもの海岸線を持ち、豊富な漁場を抱えている。しかし、1991年の内戦によって政府が崩壊し、無政府状態が今日まで続いている。それをいいことに勝手に漁業権を外国の水産会社切り売りしたり、スペインなどのEU諸国、中国、韓国、タイなどの外国漁船が殺到したりが続いている。ソマリア暫定政府が申し入れをしてもほとんど無視されてきた。そこで、自力で外国船を追い払うために漁民は武装した。そこに、失業した沿岸警備隊員や武装勢力が加わって海賊集団に発展したといわれる。
アフリカ各地に国立公園や保護区の指定が急ピッチで進んでいるが、歴史的に旧宗主国が指定したものが多い。その際に、保護区内で生活していた地元民を追い出した。そうした人々は強制的に締め出されてきたが、場所を変えて同じ保護区内で生活するか、保護区域の境界線に集落を作って保護区内の資源に頼って生活するしかない。
穀物飼料の乏しいサハラ以南アフリカでは牛が2億3500万頭、ヒツジ2億6600万頭が放牧され、1961年以来2.2倍に増えている。家畜は草や低木を食い尽くす。とくに、ヤギは根から掘り上げるように食べるので草は再生できなくなる。すると、地面を押さえつけていた草木が失われて砂が動きだす。それが砂丘になると手の打ちようがない。乾燥化が進むにつれて、家畜の中でもっとも水不足に強いヤギが増やされていく。こうなると悪循環の輪が回りはじめる。
赤潮の原因なっているプランクトンは、トリコデスミウムというラン藻類である。海水中に鉄分が多く含まれると、このラン藻が大発生して赤潮となる。砂塵には鉄分が含まれ、砂塵の飛来量が多かった直後に赤潮が発生することから、その原因と目される。トリコデスミウムが大発生すると、海が赤く染まる。アフリカに近い紅海では頻繁にこのラン藻が原因の赤潮が発生するため、Red Sea(紅海)と名付けられたほどである。
アフリカの土壌は、雨季の雨水に洗い流され、激しい蒸発によって、地中から塩分、鉄、アルミニウムが押し上げられ酸化した赤味を帯びた土になる。熱帯に多い「紅土」といわれうラテライト土壌だ。ラテン語でレンガを意味する「lateres (ラテレス)」が語源であり、アフリカの乾燥地で多く使われる「日干しレンガ」の原料に適している。だが、農業には不向きで焼畑や山火事で熱せられると硬く締まって、耕作が続けられなくなる。
水不足解消のために井戸の援助が盛んだ。だが、サヘル地方などの乾燥地帯では、井戸が掘られると、家畜に飲ませる水を求めて苦労している遊牧民や移牧民が、その周辺に家畜の大群とともに住み着いて砂漠が広がる。ニジェールやマリでは、井戸を中心にできた円形の砂漠が人工衛星写真でも確認できる。