『レアメタル入門』

中村繁夫『レアメタル入門:現代の山師が挑む魑魅魍魎な世界』(幻冬舎新書)を読む。
地球科学や物質化学の専門家ではなく,レアメタルの輸入買い付け会社に30年間勤務した後,レアメタルトレードの専門会社を立ち上げた著者が,中国やアフリカを舞台に繰り広げられるレアメタル市場の現状を語る。結論は簡単にまとめると,レアメタルは市場が未整備な面があり,産地も偏在しているので,国家がテコ入れして官民一体で開発にあたっていくべきだというものである。
中国は国家をあげてアフリカのレアメタル開発に乗り出しているが,習近平国家主席は清華大学化学科出身,胡錦濤は前国家主席は清華大学水利工程科出身,温家宝前首相は北京大学地質科出身など,中国の政治家のトップは技術系が多く,資源問題に精通している。一方日本にはレアメタルに精通した政治家は少ない。
昨日トヨタがハイブリッド技術に関する特許を無償開放すると述べたが,ハイブリッド車の生産には,ネオジム,ディスプロシウム,テルビウム(希土類)といったレアメタルが不可欠である。これらのレアメタルは100%中国に依存している。さらにこうした元素を取り出す過程で,江西省を中心に深刻な環境汚染が進んでいる。環境に優しい自動車という宣伝文句であったが,消費者は原料の産地周辺の環境やそこで働く労働者の労働状況といった点にまで目配りをしていきたい。