竹中平蔵『あしたの経済学:改革は必ず日本を再生させる』(幻冬舎 2003)を読む。
前作の『みんなの経済学』同様、マクロ経済学の視点から2003年当時の日本の置かれている経済状況をきちんと数量的に分析し、分かりやすく読者に伝えている。
在任時は前面に立つ小泉総理ばかりが目立っていたのであまり分からなかったが、小泉改革のほぼ全てがこの竹中氏のアドバイスによるものだったということがこの本を読むとよく分かる。
生き馬の目を抜く世界市場で生き残るための構造改革を断行すべきであり、そして稼ぐ力のある分野に資本と労働力を集中し、企業も地方公共団体も個人も「自助努力」を公是とし、失業や倒産を恐れずチャレンジしろと発破をかける。
しかし、「日本型ワークシェアリング」の推進という美名の元で、「改正労働者派遣法」が施行され、労働雇用の流動化がごり押しされ、現在表面化しているグッドウィルの二重派遣問題などにつながっていく因果関係は確と見極める必要があろう。
月別アーカイブ: 2008年1月
スキップシティ
午後をまわって、家族を連れて川口にあるスキップシティへ出掛けた。
スキップシティは埼玉県と川口市が共同で設置した文化施設で、川口市立科学博物館やらプラネタリウム、NHKの過去の映像ライブラリーが収蔵されているNHKアーカイブスという施設も併設されている。短い時間であったが、NHKの施設で過去の「おかあさんといっしょ」や15年前の紅白歌合戦の映像を楽しんできた。
『アース』
アラステア・フォザーギル、マーク・リンフィールド監督『アース』(2008 英)を観に行った。
北極から南極まで、ホッキョクグマ、アフリカ象、ザトウクジラなど餌を求めて過酷な移動を続ける動物をカメラが追っていくノンフィクション映画である。撮影に5年以上を費やした労作で、アネハヅルのヒマラヤ越えや、ホッキョクグマとセイウチの対決や、チーターと鹿の格闘など自然界のダイナミズムが大画面で繰り広げられる。
太陽の光と水がバランスよくあり「奇跡の星」と称される地球の素晴らしさを再発見した。そして最後に、地球温暖化の進行により生態系バランスが崩れ、このような美しい地球が二度と再生不能な姿になってしまう。しかし、まだ人間の知恵と行動によってこの地球は守られるのだとのナレーションで映画は終わる。単なる自然賛美で終わらず、問題を人間に投げ返している社会派作品である。
『私は黒人奴隷だった:フレデリック・ダグラスの物語』
本田創造『私は黒人奴隷だった:フレデリック・ダグラスの物語』(岩波ジュニア新書 1987)を読む。
1818年にアメリカのメリランド州で奴隷として生まれ、黒人奴隷というだけで苛烈な生活に追い込まれる境遇から、北部へ逃亡し奴隷解放運動に尽力を注いだフレデリック・ダグラスの生涯を追う。
アメリカの南北戦争というと、北部の自由主義と南部の保護主義の経済対立であり、黒人奴隷解放を訴える北部のリンカーンがヨーロッパの応援を得て勝利をものにしたと習う。しかし、ことはそう単純ではなく、当時からアメリカはWASPこそが社会の中心であり、北部でも黒人差別が根強くあり、また女性やネイティブアメリカンへの蔑視も強かった。フレデリック・ダグラスは単に黒人奴隷を規定する法律を廃止するだけでなく、あらゆる差別や抑圧を跳ね返し、全ての人たちが共存共栄できる社会を目指した。
黒人奴隷解放運動といっても、単に白人による黒人の地位向上だけを目指すグループや、他との連携を重視するグループ、また穏健な啓蒙運動を行うグループや、政治活動を中心とするグループ、武器を用いた破壊活動を計画するグループなど、様々なタイプがあったことが分かった。
目的は似通えども、方針を巡って離合集散を繰り返すのは、日本の社会運動と同じである。