桂宥子『理想の児童図書館を求めて:トロントの「少年少女の家」』(中公新書 1997)を読む。
30年近く前の、多分に脚色されたであろう学生時代の留学経験が話の大半を占め、カナダの児童図書館は予算や人的配置など充実している一方で、日本の図書館の貧困さを嘆くという極々つまらないエッセーである。児童にとっての読書の意義や効果に関する分析も甘く、図書館の未来像も描けていない。
ファンタジーは、大人の難解な言葉を使わずして、人生の根本問題を子どもたちに理解させることができる、児童文学特有のジャンルなのである。例えば、フィリッパ・ピアスの『トムは真夜中の庭で』は、時間の概念を、また、ジョージ・マクドナルドの『北風のうしろの国』では、死をテーマとしている。ファンタジー作家は、現実世界では、言葉の制約上、子どもたちを対象としてあつかえない抽象的または複雑なテーマを、自らが創造した物語世界の中で、子どもたちに垣間見せることができるのである。一級のファンタジー作品であればあるほど、単なる娯楽にとどまらず、生と死、善悪、友情、正義などの永遠の真実をうちに秘めている。