日別アーカイブ: 2006年6月19日

『空中ブランコ』

2004年に直木賞を受賞した、奥田英朗『空中ブランコ』(文藝春秋 2004)を読む。
仕事も家庭も円満で、順調に人生を歩んできた30代半ばになんなんとするサーカス団員やプロ野球選手、医師、ヤクザ、女流作家といった登場人物らが、ふとそれぞれの今現在の流れ作業的な仕事のあり方に疑問を抱いてしまうところから話は始まる。ストライクが入らない、空中ブランコで失敗する、ヤクザ稼業をやっているのに刀が怖い、ワンパターンな恋愛、不倫しか書けない……。しかし、これまで10年近く積み上げきたキャリアに対する自信からか、いくら周囲の者が指摘しても、彼らは決して自分の不備を認めようとしない。そして、周りからの信頼に応え切れない自分が嫌で彼らは嘔吐を繰り返したり、フロイトの言う反動形成や合理化などの行動に出てしまう。そのような中で、純真無垢な精神科医伊良部一郎と出会うことで、彼らは自分を取り戻す。
私自身も、今年で教員生活8年目を迎え、これまで通りの授業の進め方に一定の自信は持っている。しかし、それがために、心の片隅で自分の授業スタイルを受け入れてくれない生徒層の受け入れを拒むような防衛機制が働いてしまうことがある。精神科医伊良部氏はこれまでの自分のやり方をきっぱりと否定することで問題は解決すると述べ、自身がサーカスに挑戦したり、小説を書いたりして、新しい視点で仕事を捉え直すことを提案する。しかし、たかだか10年近い積み上げであるが、それを自分で崩していくのは大変なことである。
30代半ばの働く人に読んでほしい本である。