武者小路実篤『愛と死』(新潮文庫 1949)を読む。
展開としては「友情」と似た陳腐な恋愛小説であった。小田切進氏は文庫本の解説の中で、作者が主人公の村岡をして「若いいい人間が死んでゆくのはたまらない」「あまりに残酷なことだ」と言わせている場面は、当時の文学を圧殺しようとする軍国主義の暴力にたいして、作者が精一杯のレジスタンスを行った証拠だと述べる。そして昭和十年代の芸術的抵抗の秀作の一つに数えられると言う。しかし読んだ正直な感想として、報国文学的な香りのぷんぷんする作品である。作者は主人公をして「死神は人間を殺すことが出来る。だがその時人間以上の神になる。人間から慰められるにはあまりに高い。あまりに清浄な、あまりに清浄な神になります。(中略)殺されたものが神になる。この位立派な復讐はない。私にはそんな立派な復讐は出来ませんが、参って、参って、参ってもはいずり上り、夏子さんの愛と霊に報いたい」と告白させている。原因が何であれ、当時の運命によって殺された死者の魂はすべて英霊化されていく発言として受け取れる。
『愛と死』
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