読書」カテゴリーアーカイブ

『知の冒険』

桐光学園中学校・高等学校『知の冒険:大学授業がやってきた!』(水曜社,2008)をパラパラと読む。
神奈川県川崎市麻生区に位置する桐光学園中学・高校で実施された、土曜講習「大学訪問授業」の講演内容をまとめたものである。歴史学に始まり、地理学、哲学、現代思想、社会学、法学、農学、生物学、電子工学、ロボット工学、人工知能、芸術学など、文系から理系まで幅広い大学の学問の入門講座の紹介となっている。

学校のホームページを確認したところ、この「大学〜」は2025年現在も毎週土曜日、律儀に実際されている。1回だけだったら簡単だが、続けるのは難しい。業者が仲介しているのか、講演料が高いのか、大学サイドの生徒募集に絡めているのか、よく分からないが、学校関係者の努力が伺われる。

おそらく60分から90分くらいの講演内容のあらすじだけをまとめたものなので、読んでいて面白いものではない。講演会はレジュメにない自己紹介や雑談、生徒とのやりとりが面白いのに、そうした内容が一切省かれている。文体もすべて統一されており、講演者の話し口調も全く伝わらない。これだったら、動画で残してくれた方が生徒のためにも良いのでは。

『藤沢周平と江戸を歩く』

高橋敏夫・呉光生『藤沢周平と江戸を歩く』(光文社,2008)を少しだけ眺める。
タイトルにもある藤沢周平氏は、江戸の時代小説を得意とする直木賞作家である。読んだことはないが、藤沢氏の作品は当時の江戸の街並みをモチーフとして作られている。藤沢氏は小説を書く際の下調べにおいて次のように述べている。

江戸時代を書くとき、従って地理も出来る限り調べる。外を歩く商売(業界新聞記者)だから、案外それが出来る。(中略)東京は、むしろ昔の江戸の区画が思ったよりも残っていて、驚くことが多い。

『ロード&ゴー』

日明恩『ロード&ゴー』(双葉社,2009)を少しだけ読む。
作者の苗字「日明」は本名なのだろうか。
救急車の運転手が主人公の事件ものの小説である。
帯の宣伝文句には「救急車の車内の様子が全て無線で傍受され、ネットにアップされる中、犯人の指示で救急車がタイムリミットを目指して走り出すノンストップ・タイムリミット・サスペンス」とある。宣伝文句だけ読むと、米アクション映画の『スピード』を彷彿とさせるが、状況描写が多すぎて話に入っていけなかった。

『日本の基本問題を考えてみよう』

中馬清福『日本の基本問題を考えてみよう』(岩波ジュニア新書,2009)を読む。
憲法と安全保障を中心とした内容で、読みやすい文章であった。最終章で筆者は次のように述べる。先の参議院選挙での参政党や日本保守党に寸鉄人を刺すような言葉である。

どうやら、愛国心のもち主には二種類あるらしい。ホンモノとニセモノ。それを見分けるにはどうすればいいか。やたらと愛国心を口にしない人はホンモノ。まず国家があってその下に国民がある。そんな愛国心を説く人はニセモノ。個人と国家、その双方の独立を基盤に愛国心を考える人はホンモノ。ことさら特定の国にこび、事実上そこの従属国になっていながら、知らぬ顔をしている人の愛国心はニセモノ。これが私の識別法です。

筆者は、福沢諭吉の『学問のすゝめ』の一節「独立の気力なき者は必ず人に依頼す、人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐るる者は必ず人に諛(へつら)うものなり」を引用しながら、アメリカ従属の姿勢からはまともな愛国心が育たないと断じている。また、ニセモノ愛国者は、個人の尊重や思想及び良心の自由を重んじてきた戦後教育こそが、愛国心を否定してきたと捉える傾向が強いと分析する。

『人なつかしき』

瀬戸内晴美『人なつかしき』(筑摩書房,1983)をパラパラと読む。
作者は数年前に他界された瀬戸内寂聴さんである。改めてWikipediaで作者の項を読んでみたが、えらく経歴の多彩な方である。

本書はタイトルにもある通り、作者が出会った文学者や編集者の人物評がまとめられたものである。1980年前後に雑誌に掲載された古いもので、彼女の個人的なやり取りが続き、ほとんど活字を目で追うだけであった。

唯一目を引いたのは、作者が評伝を書いた小説家・岡本かのこの息子の岡本太郎氏とのやりとりであった。岡本かのこの小説を読んだことがあったので、彼女の息子さんが芸術家・岡本太郎氏であったのかと感慨に耽った。