五木寛之『地図のない旅』〈五木寛之エッセイ全集 第3巻〉(講談社,1979)をパラパラと読んだ。
一体何十年ぶりに読み返すのか。おそらく高校生以来30数年ぶりであろう。解説の中で、駒尺喜美さんも指摘していたが、1968年のパリでのエッセイの一節が気になった。五木氏は次のように述べる。
世界の学生運動は共通のものを指向して動いている。それは単純化していえば、社会硬化現象に対する否定の行動といえるだろう。
官僚権力組織と、経済機構の固定化、上からの一方交通的な支配体制の強化が見られるすべての国において、その否定の運動は立ち現われるはずだ。いずれソ連国内においても学生のデモが行われるだろう。社会主義社会の中には、より一層の官僚支配体制の強大化が見られるからである。
そういった否定のエネルギーを、「イタリア! イタリア! イタリア!」「フランス! フランス! フランス!」「日本! 日本! 日本!」の合唱にすりかえられぬようにするにはどうすればよいか、などと考えながら深夜のカルチェ・ラタンを歩く。
五木氏は社会が行き詰まると、イタズラな愛国心を全面に出したファシズムがやってくると警告を発しているのである。