酒井啓子『〈中東〉の考え方』(講談社現代新書 2010)を読む。
9.11アメリカ同時多発テロ以降の中東の動きを理解するために、第1次世界大戦に遡ってイギリスやアメリカとの関係を丁寧に説明している。著者は現在千葉大学法政経学部教授、同大学グローバル関係融合研究センター長を務める中東の研究者である。特にサウジアラビアとイラン、イラクがイギリスやアメリカの戦略に翻弄されてきた歴史が興味深かった。両国ともイスラム教スンナ派とシーア派の盟主であるが、両国ともイスラエルに肩入れするアメリカと経済的な結びつきを重視してきた。一方でアメリカはイスラエルを孤立化させないように、中東にアメリカ寄りの国家を作ってきた。1960、70年代にどんどん共産主義・社会主義化していく中東・北アフリカ諸国に対抗するアメリカの狡猾な外交も説明されている。
レバノンのヒズバラやガザ地区のハマスが、イスラーム主義の互助精神に基づいた活動を展開している点にも触れている。ちょうど「アラブの春」が起こる直前に刊行されているが、若者を中心にイスラム教の保守・独裁政権に対する反対運動や、逆にイスラム教の精神に基づく平等を訴える運動など、各国で方向性の異なる若者のパワーに着目しているのは慧眼である。