岩瀬大輔・伊藤真『超凡思考』(幻冬社 2009)を読む。
開成高校から東大法学部,在学中に司法試験に合格し,ハーバード経営大学院に留学し,帰国後ライフネット生命保険を立ち上げるという華々しい経歴の岩瀬氏が,司法試験勉強時代に師と仰いだ伊藤真氏の協力を得て,勉強やビジネスでの成功の秘訣を語る。ベンチャービジネスの創業者にありがちな他人と違う発想や奇抜なまでの行動力の効能が説かれる。岩瀬氏が目標設定と情報整理の極意を,伊藤氏が時間術と伝える力のポイントについてそれぞれ語っている。
その中で,伊藤氏の伝える力の要点をかいつまんで列挙してみたい。
- 伝えたいという意識をきちんと持って話をすること。
- 話す力とは,相手の求めているものを読み取る力,感じ取る力と同義である。
- 相手の求めているものを与えるために,相手や状況に合わせて,学者,易者,医者,役者,芸者,父母の6つの役割を演じること。
- 受け手の思考のスピードに合わせて話すスピードを変える。
- ,「今日いちばんお伝えしたいのは◯◯です。そのために3つのことをお話しします」や「みなさんに伝えたいことは3つありますが,なかでも特に2番目が大事です。あとは寝ていてもいいですが,2番目の話になったら起きてくださいね」と最初に目次を発表すると,相手は「予測可能性」を持つことができ話に集中できる。
- 具体例を多用する。
- 聞き手に共感してもらうために,基本は笑顔である。受け手の警戒心を解くという意味でもまず笑顔で挨拶すること。また,講演の途中で上着を脱ぐのも一つの手である。上着というのは鎧であり,防御のイメージである。それをパッと脱ぐことによって無防備であることをアピールできる。腕まくりをすると,話が白熱してきているという印象を与える。
- 聞き手の疑問や不安を先取りして話を進めるという方法もある。「ここでみんなつまづくんです」と指摘したり,「これは一回聞いたぐらいではわからなくて当たり前」と言ったりすると,聞き手は不安から解消される。
- 「司法試験のカリスマと紹介されると,聴衆との間に距離が開いてしまうので,「先ほど『司法試験のカリスマ』なんてご紹介をいただきましたが,世の中で「カリスマ』と言われるほどいい加減な人間はいません」と言って,笑いを取れると,聞いてみようかという空気が醸成される。
- 10のうち2伝われば十分である。ただし,大事なことはゆっくりと繰り返し話すこと。ヒトラーは1時間の中で何十回も「労働者のみなさん,仕事を与えます」と繰り返し,聴衆の記憶に残る演説をした。
- 大勢の前で話すときも,「あくまで1対1」を忘れないこと。
- 聞き手の集中力を切らさないために,緊張と弛緩のタイミングを作ること。一本調子がいちばんよくない。大切な事柄を伝えたいときはあえて太い低い声でゆっくり繰り返して話す。またあえてリズムを崩して「間」を作ると,受け手の集中力は「あれ?」と高まる。キーワードや語呂合わせ,具体例はいい弛緩材料となる。くすっと笑わせることができたら成功である。また,「これはメモを取っておいたほうがいいですよ」「レジュメの何ページの何行目を見てください」といった具体的な作業を促すのもメリハリに繋がる。ポンと手を叩いたり,場合によっては動いたりといったジェスチャーもアクセントになる。話題に関係する小物を見せたり,本を紹介するといったアクションも効果的である。