『男たちは北へ』

風間一輝『男たちは北へ』(ハヤカワ文庫 1995)を読む。
1989年に単行本として刊行された本の文庫化である。
作者の実体験に基づく話であり、荒削りではあるが、一緒に旅をしている気分を味わった。
物語は、東京から青森までの自転車旅にチャレンジする44歳の中年男性が、国道16号沿いで国家を揺るがす一大クーデターの計画書を拾ったことから始まる。自転車で越えるリアルな激坂の模様や、
自衛隊
少年の成長

物語の登場人物のふとしたセリフが気に入った。

 自転車で、再び青森まで走って、津軽海峡を船で北海道へ渡らなければ、二〇年前のあの悔しさを晴らすことはできない。青森までは飛行機が電車というのは意味はない。しかしたとえ若くても、青森まで自転車で行くのは大変な難行苦行。何度も、何日も苦しい思いをしなくてはならない。その苦しみこそが、後になれば自転車の楽しみでもある。
 だが、同じ思いをするのなら、まだ走ったことのない、見知らぬ道、見知らぬ街、見知らぬ山河になにかを発見しながら走り抜けたい。知らない道は、どんなに厳しくても走り抜く自信はあるが、知っている道を二度も走りたくはない。先の見える道に不安はないが、喜びもない。苦しみが苦しみだけで終わってしまう。人生も同じじゃないか、とまでは言わんが、男の性かもしれない。

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