第3回新潮ドキュメンタリー賞受賞作、日垣隆『そして殺人者は野に放たれる』(新潮文庫 2003)を読む。
2003年に新潮社より刊行された単行本の文庫化である。刑法39条が拡大的に解釈され、加害者の弁護側だけでなく、検察や司法も、意図的な残忍な殺人ですら無罪もしくは減刑を判じている実態を明らかにしている。
刑法39条は「1.心神喪失者の行為は、罰しない。2.心身耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」とあり、元々は心神喪失者や心神耗弱者といった正常な判断ができない人たちの権利を守るための条文である。しかし、精神科医に委ねられた鑑定書がほぼ加害者の更生の可能性を抹殺しない内容となる以上、起訴して無罪判決になると困ってしまう検察や、医学に踏み込めない司法は、安易に心神喪失と正常の間の心神耗弱を持ち出して、刑の減軽を計ることで丸く収めようとする。しかし、そこには被害者や被害者の家族の気持ちは忖度されない。
非常に刺激的なタイトルであるが、重度の精神障害や知的障害の行為については配慮が必要であると明示しつつ、刑法39条を前にして思考停止状態に陥っている司法現場に痛烈な疑問を投げかけている。都合のいい事例ばかりが挙げられているが、刑法39条そのものの欠陥を指摘する熱意はよく伝わってきた。
『そして殺人者は野に放たれる』
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