横浜薬科大学のパンフレット(2014年度版)を読む。
教育界ではいろいろと噂の絶えない福岡に拠点を置く「都筑学園グループ」が、埼玉県伊奈町に開設した日本薬科大学に続いて、2006年に横浜市戸塚区に開設した大学である。交通の不便さと相俟って閉園した「横浜ドリームランド」の跡地を活用しており、21階建ての展望台付きのホテルがそのまま図書館棟になっており、大学のシンボルとなっている。また、学長には、人寄せパンダとしてノーベル物理賞を受賞した江崎玲於奈教授を据えている。パンフレットの表紙が上手く大学の戦略を表している。
6年制の薬学部ではあまり学科は置かれないが、横浜薬科大学では薬剤師育成も含め、「漢方をコアに東洋医療に精通した薬剤師を育てる漢方薬学科」と「一人ひとりの患者と向き合いながら治療をサポートできる人材を育成する臨床薬学科」「食費・運動・環境・感染症にいたるまで、セルフメディケーションを幅広く学ぶ健康薬学科」の3学科体制を敷いている。学科ごとにイメージカラーを用いながら学科ごとの特性を打ち出しているが、3学科共通科目が大半であり、漢方も臨床も健康も全て他の薬学部には普通に設置されている科目である。大した意味もなく学科を分けるというのは、数十年前に自動車販売で用いられた姉妹車戦略を彷彿させる。トヨタ自動車が、マークⅡ・チェイサー・クレスタとエンブレムやボディカラーの違いだけで中身は同じ車を競合させて販売を伸ばしたのと同じような商法である。
パンフレット自体は、学生の様子も、教員の紹介も網羅されて、講義内容や試験対策、薬剤師の仕事についても触れられており、分かりやすい内容である。冒頭の紹介文の「薬剤師に必要なものは、(中略)薬を通じてみんなを幸せにしたいという気持ちだったり、医師や看護師とのコミュニケーション能力だったり、患者さんへのやさしい気配りだったりします。だから横浜薬科大学は、学生さんを学力や偏差値だけでは計りません。」という一節が大学の置かれている状況を如実に表している。物理や化学、生物、数学の4科目について基礎学力講座や未習得科目補習教育が行われているのだが、中退率や留年率が高く、国家試験合格率もランキング下位に留まっている。
2012年度の大学基準協会の大学評価において、大学基準に適合していないとの評価を下されている。その評価理由は大学基準協会のホームページで次のように公開されている。
(1)「教員・教員組織」について、講師以上の専任教員の選考が規程通り行われていないなど、教員人事の透明性・公平性に大きな問題がみられること。
(2)「教育内容・方法・成果」について、編入学生の既修得単位認定の上限設定が規程等に定められておらず、単位の認定についても、該当する科目の担当教員に委ねられていること。
(3)「学生の受け入れ」について、学生の受け入れ方針とは異なる考え方に基づき、また修学能力の判定も規程に定められた手続きを経ずに学生を受け入れ、多くの留年者・退学者を生み出す要因となっていること、また、過去5年間の入学定員に対する入学者数比率の平均が薬学部健康薬学科と漢方薬学科で低く、臨床薬学科では非常に高いなど、定員管理に問題がみられること。
(4)「内部質保証」について、問題を改善していくための体制・システムが整備されておらず、十分な自己点検・評価活動が実施されていないことに加え、提出資料に事実と異なる記載があることから、真摯に自己点検・評価を行って質を保証しようとする姿勢が見えないこと。
いくら名前のある法人が既存の施設を活用するとはいえ、果たして既に飽和状態の首都圏に2つの薬科大学が必要だったのであろうか。田中眞紀子元文科大臣が指摘したように、大学許認可行政の不手際であろう。校舎が完成して、教員を確保してから認可申請するという手順そのものが、無駄なハコモノを生む温床である。当時の文科行政に対する批判は現在どのように生かされているのであろうか。