『白夜草子』

五木寛之『白夜草子』(文春文庫 1977)を読みかえす。
1971年の「文芸春秋」の1月号から12月号に連載された作品で、全共闘運動の最中大学を辞職し、挙げ句の果てにはインポになってしまった大学講師の話である。
過去に何度か読み返した作品であるが、全共闘運動が曲がり角を迎え、空疎な70年代の訪れを一人の主人公に託して巧みに描く。私の個人的な思い入れの強い作品である。
反体制である学生側と体制である大学側の両方からパージされた元大学講師は自分の拠って立つ場を失い苦悩する。そうした苦悩が下半身の不能という事態を導く可笑しくも重苦しい雰囲気の漂う作品である。主人公の元大学講師が、ひょんなことから1週間同棲することになった活動家の女子学生に下半身を指先で引っ張られながら、「階級的な罪の意識から解放されない限り、あなたは不動のままだと思うわ」と忠告を受ける場面がある。この女子学生の指摘するところは深い。きわめて日本人的な階級的思考形態を皮肉っている。

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