『目覚めよと彼の呼ぶ声がする』

石田衣良『目覚めよと彼の呼ぶ声がする』(文藝春秋 2007)を読む。
40代になった著者があちらこちらの雑誌に書き散らしたコラムがまとめられている。特に30代の女性誌に愛読されている「クロワッサン」に寄せた文章に惹かれた。現在30代半ばを超えたばかりの私にとって、日常や仕事に流されていては、心の若さがこれからどんどん失われていってしまう。この夏を機に生活を少し変えていきたいと思う。

人の心というものは、目じりや首筋の肌なんかよりも、ずっと乾きやすく張りを失いがちなのです。化粧品やファッションにつかう費用の十分の一でもいいから、女性のみなさんは心の水分のためにお金をつかってください(その女性の半分でいいから男性にもがんばってほしい。みなさんのまわりでもそうだと思うけど、中年男性の心の硬さはすでに壊滅的だ)。
では、なにをすればいいか。こたえは簡単で、肉体と同じように、心だっていつも動かしておく必要があるのです。固まったままの心は、老化も早いもの。人間の精神は適度の運動によって、しなやかさや張りを保つことができるのです。
実はそのためにこそ、あらゆる文化・芸術というものがあります。大人の女性なら、文化の効能を覚えておいて損はないはず。すべての化粧水は肌に水分を補給するためにあり、すべての文化は心にうるおいをもたらすためにある。化粧水と同じように、自分にあう作品を気軽にどんどん試してください。
怖がることなんてぜんぜんないのです。どこかの才能ある作家が、十年かけて死ぬ思いで書いた本を、寝そべって読む。作曲家渾身の白鳥の歌を、晩ご飯のBGMにする。つくっているほうは必死でも、それがどんなふうに楽しまれるかについては、誰も文句なんていいません。それくらいの軽い気もちで、いろいろな芸術作品にふれるのが大切です。涙をぽろぽろ流したり、腹を抱えて笑ったり、一行の台詞やひと筋のメロディに撃たれて、その場に立ち尽くしたり、日常の生活ではなかなかつかうことができない、感情の極端な振れ幅を思いきり楽しむ。それが心の若さを保つには、一番いい運動なのです。

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