『雪はなぜ六角か』

夏休みの10冊目

小林禎作『雪はなぜ六角か』(筑摩書房,1984)をパラパラと読む。
著者は北大の教授で、雪の結晶の第一人者であり、温度と湿度が雪の結晶に及ぼす影響を整理した「小林ダイヤグラム」なるものまである。実験レポートのような内容で、ほとんど読み飛ばしたが、実は結晶成長学という学問はニッチな分野ではなく、かなりメジャーな学問であるようだ。日本結晶成長学会第15代会長の藤岡洋東京大学生産技術研究教授の言葉を紹介したい。本書は雪の結晶だけであったが、実は様々な工業製品に関する有望な学問だということが分かった。

結晶成長学は数学・物理・化学・生物学といった基礎科学や、電子工学・機械工学・化学工学・生命工学・医学といった沢山の応用学問分野と、多くの接点や境界領域を持ちます。また、化学産業・半導体産業・電子部品産業・自動車産業・医療機器産業といった結晶成長を利用する産業界からのニーズが刺激となって、新しい結晶成長技術が次々と開発されています。したがって、この学問領域の発展には多種多様なバックグラウンドを持つ人々が集い議論を深めていく場を提供することが重要です。結晶成長学会はこの様な学術交流や産学交流を支える組織としてその役割を積極的に果たしていくべきと考えています。

また、Wikipediaで調べたところ、著者の小林さんはこの本を刊行した3年後に亡くなっている。執筆時にはすでに重い病にあったようで、あとがきの最後は次の一節で締めくくられている。

考えてみれば、(東大の船舶専攻に入れなかったが、北大での)雪作りの方がよほど楽しい人生だったかもしれない。私はやがて大学を定年になり、雪の研究は若い人たちに引きつぐことになる。そうしたら、私ははたせなかった幼い日の船作りの夢を、古い時代の帆船模型に託して生きていきたいと思っている。