井上史雄『日本語は秒速一キロで動く』(講談社現代新書 2003)をパラパラと読む。
著者は東京外国語大学で長く言語学を研究していた学者である。本書では「ジャカマシイ」や「センカッタ」「ケンケン」「〜シナイ」などの方言がどのように他地域に伝播していくか、詳細なデータをもとに分析した労作である。言語地理学の分野の研究になるのであろう。
そうした中で、マスメディアの影響も含めて方言は均すと年速1キロくらいで拡大していくことを明らかにしている。さらにはインド=ヨーロッパ語族のヨーロッパへの拡大についても、小麦栽培と結びつけて年に1キロという似た速度で西進していったことも紹介されている。またモンゴロイドがアジアからベーリング海峡を渡ってアメリカ大陸北端に渡り、南アメリカ大陸南端へ達した過程も、5万キロに5万年かかったとすると、ほぼ同様の速さとも言えると述べている。
言語・文化の伝播とそれを担う人間自体の移動は別問題のはずだが、1世代あたり30キロ、つまり年速1キロほどに落ち着くのだろうと結論付けている。