石平・村上政俊対談集『最後は孤立して自壊する中国:2017年習近平の中国』(WAC 2016)を読む。
保守系の論壇誌「月刊WiLL」を刊行している出版社の本なので、自民党の安倍総理の大局観を持ち上げる一方、民主党政権の政治的判断やオバマ政権、中国共産党を蔑視するというスタンスで話が展開していく。
しかし、カースト制度に近い身分制社会が蔓延っていたり、全人口の4%ほどの支配階級を守ることを第一義に政治や経済が動いていたりする現実を知ってショックを受けた。
中国では戸籍制度がまだ厳格に残っており、農村に戸籍がありながら農村に職がなく都市部に出てきた人たちは「農民工」と呼ばれ、都市住民に比べ税制や雇用の面で明らかな差別を受けている。現在は建設の現場や輸出産業の工場で吸収されているが、いずれ経済成長が鈍化すると、職も住む場所も帰る場所も失ってしまう。しかもそうした「農民工」が2億6千万人もいるという。中国の歴史は常に、そうした行き場を失った民衆の叛乱による革命の繰り返しだが、著者の二人も中国が内戦状態に陥り、数百万人単位の難民が近隣諸国に流れていくことを懸念している。
また、これまたあまり報道されないが、中国では地方政府の庁舎を襲撃する事件が年間数万件、毎日何百件も発生しているという。そうした下層階級の暴動の鎮圧やチベット人やウイグル人などの少数民族を抑えつける目的で、武装警察が組織されている。「武警」とも呼ばれているが、普通の警察とは全く異質で、外敵と戦う人民解放軍と同じ位置付けで、内なる敵と戦うためだけに組織され、国内の「秩序」を保つために活動している。
著者たちは、そうした中国の内戦や自壊に対し、米国を中心とした包囲網を敷くことを説くのだが、そうした安易な対米追従の考えを一蹴できないほど、インパクトのある事例が紹介されていた。