『私の人生観』

小林秀雄『私の人生観』(角川文庫 1954)を半分程読む。
1948年の講演会ではなされたものに加筆・訂正を加えた表題作の他、骨董趣味や登山、金策などのユニークなエッセイ が多数収載されている。
亀井勝一郎氏の手による作品解説の次の一節が印象に残った。1960年代後半から1970年代前半のような、難しい言葉が並び、韻を踏むようなリズムのカッコイイ文章である。

本書に収められた文章の根底にあるのは、病者の自覚だ。それは「近代」に対する懐疑、抵抗であり、さらに一種の快癒の祈念であるといってよい。進歩主義、観念の空転、心理のもてあそび、解釈の氾濫、すべて近代病だが、小林秀雄は自他においてこれを殲滅しようとした。私の最も尊いと思うのは、ここにあらわれた自己放棄力である。感傷の抹殺である。それは宗教的、とくに禅的と言っていいものだ。あらゆる惑わし、まやかしを摘発して、ものそのものを直に凝視せんとする、見ることと考えることを一如たらしめようという境地がそこにうかがわれるであろう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください