『眼の壁』

松本清張『眼の壁』(光文社)を読んだ。
『点と線』と並ぶ松本氏のデビュー作である。これらが書かれたのは1960年である。高度経済成長の中での会社員の心労が事件の背景に描かれている。
私の大学時代卒論ゼミで江戸川乱歩を取り上げた学生がいた。その学生の卒論の草稿を読んでゼミの教員が「江戸川乱歩は『昭和』の合理化優先主義の影に潜む構造をつかみとっている」と評していたが、松本清張の作品にも昭和の暗部が底辺に流れている。これが「平成」になると途端に難しくなる。村上春樹の作品に代表されるように「平成」の暗部はバーチャルリアリティ的なものになってしまう。「都市と農村」「男と女」「金持ちと貧乏人」といった近代文学までの旧来の対立項が崩れてしまっているのだから、「現実と虚構」という世界観に根差した小説はもう少し続いていくのだろう。

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