三本和彦『ムダをさせないクルマ学』(情報センター出版局)を読む。
消費者の立場からクルマのうまい買い替え方や保険の利用法に関する内容だ。取り立ててどういうことはない。ただ、感じたことはこれだけ車社会と言われて久しい日本において、なぜ自動車に関する消費者運動が芽生えなかったのだろうか。アメリカのラルフ・ネーダー氏のような「健全な」消費者運動が芽生えなかったのは偶然のことではあるまい。環境問題や生協運動という形はあったが、自動車メーカーを直にターゲットとした運動は生まれなかった。日本人の中に「消費者」という自己規定が生まれにくい土壌があったことも事実だが、そこにはこと日本政府が自動車産業を特別保護していた歴史が伺える。経済学者の降旗節男氏は日本の戦後の経済成長の根幹に必ず自動車があったと指摘する。政治や経済のすべてが、円安を背景にした自動車輸出構造を支えるものであった。新聞やテレビ番組も自動車の広告と広告の間にちょこっと記事があるだけの代物であり、日米安保は自動車の輸出経路を保障するものであり、均質な教育制度は良き自動車の消費者層形成のためであったと降旗氏は述べている。まさに政財官そろって自動車産業を徹底的に護送船団方式で保護していたのだが、そのことは同時にそれに対する運動を根こそぎ刈り取ってきたことを暗示している。おそらく我々の預かり知らぬ所で巧妙な世論操作、マスコミの論調誘導が働いているのだろう。
『ムダをさせないクルマ学』
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