本日の東京新聞朝刊コラムで、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が核・ミサイル実験の中止を表明したにも関わらず、全国瞬時警報システム(Jアラート)の全国一斉試験を行う日本政府に対する疑問が呈示されていた。
纐纈厚・明治大特任教授は「Jアラートや避難訓練に実効性はない。ミサイルへの備えというのは口実だからだ」と切り捨て、さらに、その狙いについて「意識統制だ。国家の命令でどれだけ国民が動くのかの確認で、監視社会への一里塚。ただ、もはや脅威の前提は崩れた。Jアラートや防衛のあり方を見直すべきだ」と訴える。
Jアラートは災害や日本への武力攻撃の動きなどを国が把握した際、自治体の防災行政無線を通じて国民に警告するシステムで、2007年から運用され、地震や津波情報に用いられてきたが、近年は北朝鮮のミサイル発射のタイミングで発動されている。消防庁国民保護室は「Jアラートはミサイル着弾警報専用ではない」と力説し、地震や津波など大規模災害も対象で、「試験放送は機械の不具合がないかを確認するための動作チェック。機械なので定期的な訓練が必要」と継続する姿勢を堅持する。
こうした動きにジャーナリストの高野孟氏は「国際社会が北朝鮮を巡って大勝負をかけている時に、そんな訓練をすれば『この期に及んで日本は戦争の準備か』と批判される」と危ぶむ。さらに、「安倍政権は北朝鮮の脅威をあおって、新たな安全保障法制を成立させた。森友・加計問題を巡り、内閣支持率が低迷する中、政権維持には『脅威』が必要。訓練を止めれば脅威が薄れたのかと突っ込まれる」と指摘する。
消防庁は本年度予算で、国民保護訓練の実施に前年度比44.4%増の1.3億円を計上したが、明治大の西川伸一教授は、頑なに訓練を続ける姿勢を霞が関に染み付いた「予算全額消費の原則だ」と指摘する。「予算は使い切る。政策の合理性が消えたら口実を作る。それが官僚だ。使い切らないと翌年度以降、予算が減らされる。省庁にとっては権限が縮小されるという恐怖だ」と述べ、さらに「安倍政権が持ちこたえているのは、北朝鮮脅威論のおかげ。訓練をやめられないのは、政権への忖度もある」と警告を発している。
スマホや町の防災無線が一斉に唸りを上げるという手法は、大変アナログである分だけ、聴覚に直接脅威を印象付けるシステムである。学校の修学旅行での戦争追体験や起震車などの災害体験とよく似ている。実際に起こった戦争や災害の疑似体験なら話は分かるが、起こってもいない核・ミサイルの恐怖体験というのは国民に正常な判断を与えない危険な手法である。
地震や津波などの災害と北朝鮮の脅威はきっちり分けて考えるべきである。