月別アーカイブ: 2003年4月

『だからあなたも生き抜いて』

大平光代『だからあなたも生き抜いて』(講談社 2000)を読む。
作者は中学2年のときにいじめ自殺を図り、その後非行に走り、極道の妻を経て、29歳で司法試験に一発合格した異色の経歴の持ち主である。プライバシーに配慮しすぎたためか、事実関係を端折っている場面が多かったが、努力の押し売りを控えた表現で、素直に読むことができた。司法試験に合格した際に、背中の大きな刺青を消したらどうかという助言をめぐっての彼女の台詞が気に入った。

今までのことを全部消し去って、何もなかったようにのほほんと暮らすというのはちょっと違うと思うんです。過去にしてきた事実は事実として、一生背負っていくものだと。背負ったままの私で、何か世の役に立つことはないかと。そう思って、消さずにいたんです。

この大平光代の言葉を読んだ時すぐに私は文学者中野の言葉を思い出した。中野重治は1934年「転向」宣言による出獄後、すぐに『文学者に就いて』の中で以下のように述べる。

弱気を出したが最後僕らは、死に別れた小林(秀雄)のいきかえつてくることを恐れはじめねばならなくなり、そのことで彼を殺したものを作家として支えねばならなくなるのである。僕らは、そのときも過去は過去としてあるのであるが、その消えぬ痣を頬に浮かべたまま人間および作家として第一義の道を進めるのである。

大平光代の上記の言葉は、「転向作家」のレッテルを否定することなく、文学活動にまい進していった中野の姿となぞらえるに、非常に強い決意表明だと受け止めた。

『キャッチミー・イフ・ユー・キャン』

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昨日、スティーブン・スピルバーグ監督・レオナルド・ディカプリオ,トム・ハンクス主演『キャッチミー・イフ・ユー・キャン』(2002 米)を大宮へ観にいった。
夜9時過ぎからの上映だというのに館内は満員であった。 FBIと詐欺師という追いつ追われつという関係に段々と友情が入っていく過程が面白かった。トム・ハンクスとディカプリオの演技あってのものであった。1960年代後半を描いているのだが、話の伏流に人権の保障のない仏国と人権と自由を保障する米国という構図が見え隠れした。

『波瀾万丈』

辰吉丈一郎『波瀾万丈』(ベースボールマガジン社 1994)を読む。
おそらくはゴーストライターによるものであろうが、軽妙な文体で気楽に読むことができた。
苦労・努力の末、運命的な成功を掴むストーリーは、スポーツ系の成功潭の典型であろう。

『水辺のゆりかご』

柳美里『水辺のゆりかご』(角川文庫 1997)を読む。
彼女の悲惨な過去半生が描かれた自伝的小説である。後書きで林真理子が述べているように、あまりに悲惨な経験であるために、かえってどこか遠い世界の物語のような虚構を感じてしまう。彼女の芥川賞受賞作「家族シネマ」と合わせて読むとより深く味わうことが出来る。

『グリーン・マイル』

スティーブン・キング『グリーン・マイル』全6巻(新潮文庫 1997)を読む。
知人に映画が面白いという話を聞いて原作を読み始めたのだが、確かに映画のシナリオを読んでいるように計算された伏線と構成を持つ作品であった。登場人物の内面描写よりも、人物の行動や会話の細かい点まで逐次描き込むことで、人物像をうまく浮かび上がらせている。内容的な深さはないのだが、スリリングな展開のうまさにへとへとになりながらも最後まで一気に読んでしまった。