『インド対パキスタン』

西脇文昭『インド対パキスタン:核戦略で読む国際関係』(講談社現代新書 1998)を読む。
1998年5月に相次いで実施されたインドとパキスタン両国の核実験を受けて執筆された本である。
インドとパキスタンのイギリスからの独立以降の歴史から、カシミールの帰属の背景、両国の核開発の中心人物や経緯、インドが開発を進めているプルトニウム型(長崎型)兵器とパキスタンが実験を行ったウラン型(広島型)兵器の違い、今後の両国の関係に影響する中国と米国の外交戦略などが分かりやすく説明されている。特に、本論の中心テーマではないが、原子力発電と原爆の違いや、ウラン238からプルトニウムが生成されるプロセスといった科学的な内容がよく理解できた。

著者によると、パキスタンの核開発は大国インドとの対立関係上進められる消極的なものであり、また、インドの核実験も国境を接する中国に対する戦略の上であり、そして、その中国も米国との覇権の対抗上核開発を進めているとのこと。つまり、全て核の抑止力という危険な国策で繋がっているのである。さらに、著者は、その米国自身がソ連への対抗上パキスタンを支援したり、10億人のマーケットを米国が支配するためにインドの軍事開発を大目に見たりしているために、一地域の問題が国際関係にまで悪影響を及ぼしていると示唆する。
インドとパキスタンの対立と聞いても、日本人は遠い国の関係のように思うが、現実は、米国の核の傘の下にいる日本とは切っても切り話せない問題である。

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