田山花袋『蒲団・重右衛門の最後』(新潮文庫 1952)を読む。
『蒲団』は1893(明治40)年、『重右〜』の方は1888(明治35)年に刊行されている。日本の自然主義文学の幕開けと言われる『蒲団』を読もうと思って手に取ってみた。
確かに言文一致の読みやすい文体で、旧い思想と新しい欧米的な思想の対決や、男女関係の変遷など社会的な問題を扱っており、自己の卑猥な欲望を白日の下にさらけ出すショッキングな告白小説である。しかし、30代半ばの中年男のありがちな妻への倦怠感や浮気心がテーマのつまらない内容で、文学史の転換点以上の価値はない。
むしろ、『重右〜』の方がワクワクして面白かった。障害者の心理と行動を、成育環境の面から検証を加えつつ、群集心理の危険性や排外主義な村意識などに触れ、しかも、それらにあまり拘泥することなく、展開にスピード感があり読みごたえがある。田山氏自身もこの『重右〜』を書いたことで、作家として自立していこうと決意したとのことだが、『田舎教師』などよりも注目されてよい作品である。