石川哲・宮田幹夫『化学物質過敏症:ここまできた診断・治療・予防法』(かもがわ出版 1999)を20分ほどで卒読する。
日本臨床環境医学会の設立に尽力した2人の著者が、アメリカの事例を参考に、化学物質過敏症の症例や原因物質、診断方法、免疫関連疾患、ホルモン・先天異常などについて、素人の読者にも分かりやすく説明している。医者が書いた本であるが、専門用語をなるべく避け、平易な表現で書かれている。
化学物質と一口に言っても、人類がこれまで開発した化学物質は1600万種(人が合成した天然でない化学物質。石炭・石油科学や、天然化学物質を化学的に修飾して変化させたものも含む)にのぼる。毎日2000種類の新しい化学物質が報告され続けているとも言われ、EUでは12万種類の化学物質が日常生活に入ってきているとしている。
人の体は過酷な外部環境に抵抗し、体の内部の環境をいつも一定に保とうと努力している。これをホメオスタージスと呼び、免疫、ホルモン、自律神経の3本柱がお互いに連動することで維持されている。化学物質過敏症はこの3本柱に障害を引き起こし、免疫の異常によるアレルギー、内分泌(ホルモン)の異常からくる子宮膜の異常や精子数の減少など、そして自律神経の異常症状であり、その症例は数え上げるとキリがない。
また、こうした化学物質過敏症は人間だけでなく野生動物にも影響を与えている。貝の雄性の不妊雌化や、ワニやカワウソのペニスの小型化、イルカのアザラシの悪性腫瘍の増加などが報告されている。
化学物質過敏症を突き詰めていくと、化学や医学の範疇に留まらず、生物学や環境学、他にも電磁波や超低周波音の被害など物理学の見地まで必要になっていく。学際的な研究が求められる分野であるという点は理解できた。