『日本人のための世界史入門』

小谷野敦『日本人のための世界史入門』(新潮新書 2013)を読む。
古代ギリシャに始まり、暗黒の中世、ルネッサンス、フランス革命など主だった時代を取り上げ、豆知識で上手く史実をつなげていく。面白い見方だなと感心したところを引用しておきたい。

フリードリヒ大王をはじめとして、啓蒙専制君主というのがいたとされる。ほかにマリア=テレジア、ロシヤのエカテリナ2世などで、啓蒙思想に理解を示し、国民を啓蒙しようとしたとされるが、これはどうも不思議なものである。啓蒙思想の中には、民主主義を志向するものである。現にフランスでは革命が起きているわけだから、彼らは自分を否定することになってしまう。仮に君主制が否定されないまでも、啓蒙思想の下では、議会制民主主義に移行するのが趨勢で、彼らのような絶対君主はやはり否定されるはずで、いったい彼らの考える啓蒙とか近代化というのは何なのか。革命が過去、未来において起きたフランス、英国には啓蒙専制君主はいないのだが、プロイセンやオーストリアが、フランスや英国のように近代化しようと考えたら、それは革命への道ではないのか。啓蒙専制君主というのは、何とも不思議な存在である。

 

1848年にまた革命が起き、第二共和制となるが、この時大統領になったのが、ルイ=ナポレオン・ボナパルト、つまりナポレオンの甥であった。かつての英雄の一族ということで、国民の間に人気があったのである。だからこのように、かつての英雄の子孫を国民が支持する現象をボナパルティズムという。現在、ビルマの軍事独裁政権に抵抗しているアウンサン・スーチーも、かつての日本や英国からの独立を指揮したアウンサン将軍の娘なので、ボナパルティズムなのだ。

著者自身があとがきの中で次のように述べる。

歴史の知識は、だいたいでいいのである。その「だいたい」がないから困るといえるので、歴史学者は細かすぎ、教わる学生には「だいたい」すらない、というのが現状である。知識人や学者が専門的な議論をする時は、「だいたい」では困る。しかし、一般読書人の歴史の知識は、だいたいでいいのである。

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