横溝正史『7つの仮面』(角川文庫)を読んだ。
金田一耕助を通して1950年、60年代といった昭和30年代における日本の世相が垣間見れて面白い。あくまで日本人にとって価値判断の基準は「世間」にあるのだということがわかる。日本人には宗教観が欠如しており、キリストやアッラーといった絶対神を信仰しないために、人が見ていなければ、世間で噂にならなければ全てがまかり通るといった安易な考えに流れやすい。そうした日本人には絶対的価値に照らして物事を判断する経験が無いといった歴史的な経緯から憲法の精神や法律に照らして物事を考える習慣がなく、いつまでも「人様の視線」と人情が日本人の価値判断を左右してしまう。
横溝正史の作品を読むにつれてこの思考パターンに基づく戦後の日本人的社会観の形成過程を実感する。親族に犯罪を犯したものや、「精神病」患者が出たときに、家族ぐるみでそれを覆い隠そうとし、その秘密が本家と分家の争いに歪みを与えているといったじめじめした作品舞台に触れるにつれて、1980年代以降がいかにドライな人間関係へと変わってきているのか、そのギャップに驚き、面白みを今感じている。