地理」カテゴリーアーカイブ

「『原潜』拡散の危うい潮流」

本日の東京新聞朝刊に、中央大学の目加田説子教授の原子力潜水艦の拡散への懸念を示したコラムが掲載されていた。
記事を読んでもピンと来ない人が多いだろう。先月アメリカ、イギリス、オーストラリアの3カ国の首脳が、中国の拡張を抑止しインド太平洋地域の安定と安全を維持するため、「AUKUS」と呼ばれる安全保障の枠組みを発表した。3カ国の一体展開で、中国の「一帯一路経済圏構想」をインド太平洋地域で抑え込もうという戦略である。大洋が舞台となるため、米英は豪州に原子力潜水艦の技術を供与し、機動的な軍事展開を可能としている。

授業中に何度か、中国がアフリカを市場とするために、インド洋への足掛かりを作っているという話をした。ミャンマーやアフガニスタン、スーダンなどの軍事政権を中国が後押ししているのも、全て中国の経済戦略の一環と捉えることができる。そうした膨張を止めない中国に対する包囲網に、米英豪印だけでなく、日本や韓国、台湾などの東アジアの国も巻き込まれている。また、中東でも中国と歩調を合わせるイランに対し、サウジやUAEとイスラエルが手を組み対立を深めている。

少し話はずれるが、2002年に、ハワイオアフ島付近で愛媛県宇和島水産高等学校の練習船「えひめ丸」が、米軍の原子力潜水艦に衝突沈没し、高校教員・生徒9名が亡くなるという事件があった。事故の原因は米原子力潜水艦に民間人が搭乗したこともあり、半分遊びで海底からの急上昇体験を実施したところ、海上にいた実習船に不注意でぶつかったというものだ。当時のニュースでも、原子力潜水艦の危険性が指摘されていたことを記憶している。
ちなみに、当時の首相は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長を務めていた森喜朗である。この「えひめ丸事故」の第一報を知ったのちもゴルフを続けて、責任ある対応を取らなかったとして辞任に追い込まれている。

非核三原則を表向きは堅持している日本では、すぐに原潜の配備とはならないという向きもあろう。しかし、中国の領海侵犯や台湾を廻る緊張の高まりで、日本でも原潜配備の声が出てもおかしくない状況であることは、これからの授業でも伝えていきたい。

「ロシア艦隊が日本海で演習」

本日の東京新聞朝刊に、ロシア艦隊がウラジオストック沖で軍事演習を展開したとの記事が掲載されていた。
ウラジオストックというのはロシア語で「東方を制する」という意味で、当時の清や日本との交易を図るために、1860年に建設された新しい都市である。場所を地図で確認しておきたい。ウラジオストック沖での演習が、どこの国に対する示威行為なのかは述べるまでもないであろう。

ロシアは日本の隣国なのに、ロシアの情報は欧米メディアを通してしか日本に入って来ない。日本の外交力の弱さである。そもそも日本にロシア語が堪能な人が少ないのだ。関心がないからロシア語の人気がないのか、ロシア語の人気がないから関心が向かないのか、卵が先か鶏が先かという議論になってしまう。みなさん、ロシア語を勉強してみませんか。

「台湾、米軍駐留認める」

本日の東京新聞朝刊に、台湾の独立志向が強い民進党の蔡英文総統が、米軍が訓練支援目的で台湾に駐留していると認めたとの記事が掲載されていた。
地図を見れば分かるが、台湾の北の沖縄と南のフィリピンには米軍基地が配備されている。さらに台湾に米軍が常駐するようになれば、東シナ海と南シナ海の両方に睨みを効かせられることになり、中国の拡張を防ぐには、地政学的にベストな基地の配置である。

一方、中国の側にすれば、1つの中国であり、自らの領土に勝手に他国の軍隊が駐留するのは、我慢できない事態である。東シナ海、南シナ海とも新期造山帯に属しており、海底に莫大な原油や天然ガスが眠っている。米中のどちらが台湾との信頼関係を構築するのかというのは、東アジアや東南アジアの安全保障だけでなく、将来の周辺国のエネルギー政策も左右する羅針盤となるであろう。

『ウィシュマさんを知っていますか?』

先日の授業で紹介した、スリランカ女性ウィシュマさんと面会や手紙のやりとりを続けた眞野明美さん(写真左)の著書である。ウィシュマさんや支援者たちの命を救うための要望が無視され、段々と衰弱していくウィシュマさんの様子を克明に紹介する。

読み終わった本を図書館に寄贈したので、手に取ってみてください。すぐに読み終わると思います。本を読んだ感想文や、日本だけでなく他国の移民・難民政策に関わるレポートを募集しています。締め切りは期末考査最終日までとします。
フォトジャーナリストの安田菜津紀さんの書評を引用しておきます。

 入管で亡くなったスリランカ人女性・ウィシュマさんが遺した手紙を1冊に!
 名古屋出入国在留管理局=通称「名古屋入管」。〈日本人〉にはおよそ縁のないこの施設の4階には「収容場」があり、2021年3月6日、スリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんがここで命を落としました。いまその死の真相をめぐり、日本の外国人管理政策そのものに疑念が突きつけられています。
 ウィシュマさんは日本語を学ぶために来日した留学生でした。ところが当時の交際相手のDVのため日本語学校に通えなくなり、在留資格を失いました。ほとんど着の身着のままの状態で、助けを求めて警察に駆け込みますが、「不法滞在者」として入管に送致されてしまいます。DV被害者をシェルターではなく入管に引き渡した警察、DVの事実を知りながら収容した入管庁は、ともに法令的にも人道上でも大きな過ちを犯したのです。
 本書では、仮放免後にウィシュマさんの身元引受人となるはずだった著者・眞野明美さん宛に書かれたウィシュマさんの手紙を全て公開しました。収容場の中でウィシュマさんは眞野さんとの平穏な生活を夢み、未来への希望を抱いていました。しかし1月28日夜、吐血。収容場の過酷な環境の中でみるみる衰弱してしまいます。2月2日の手紙には、眞野さんに助けを求める悲痛な叫びが書きつけられていました。
 「彼らは私を病院に連れて行こうとしません。私は彼らに監禁されているからです。私は回復したい。……すべての食物や水も吐いてしまう。どうしていいかわからない。今すぐに私を助けてください。」 眞野さんたち支援者の必死の抗議もむなしく、適切な医療を受けられなかったウィシュマさんは1ヶ月後に亡くなりました。日本の入管施設で収容者が死亡するのは1997年以降24人にのぼります。
 なぜ入管で人間が死なねばならないのか。不法滞在とは死の報いを受けなければならない犯罪なのか。国連人権委員会に「国際法違反」と指摘される日本の無司法・無期限の収容体制こそ裁かれるべき犯罪行為ではないのか──。ウィシュマさんたちの死が問いかけてきます。私たちのことを知ってください、と。