安能務『権力とは何か:中国七大兵書を読む』(文春新書 1999)を読む。
ちょうど、授業で「臥薪嘗胆」を扱っており、教材研究の一環として手に取ってみた。
タイトルにある通り、商君や韓非子、管仲、呉起、孫子といった春秋時代の有能な政治家の著書や言葉を紹介しながら、「権力」という語の定義付けを試みる。
結局著者安能氏の結論はよく分からなかったが、伍子胥と伯嚭のやり取りや、闔廬と孫武の話など、「史書」に描かれたエピソードが、君主と臣下の力関係や法制度といった新しい観点で紹介されており、そちらの方が面白かった。
特に韓非子が戒めるべき官僚の「権謀術数」として、「貪臓枉法」−臓(わいろ)を貪(むさぼ)って法を枉(ま)げる−を指摘しているのは興味深かった。春秋時代から中国では、宮殿や公共施設の建造と、河川や道路や橋梁などの土木工事において、主幹の官僚の懐に多額の賄賂が収められていた。そのため建築や土木工事の責任者や監督官にだれが就任するかの争いは凄まじく、儲けは専ら材料の横領と賃金や食料のピンハネであり、工期は長ければ長いほどよかったそうだ。
「中国四千年の歴史」と巷間言われるが、「貪臓枉法」の歴史もまた長い。