芳沢光雄『数学屋台』(実業之日本社 1999)を読む。
東京理科大の数学科の教授の著書であるが、数学の持つ魅力をかいつまんでエッセー風にまとめたものだ。あらゆる物事をすぱっと割り切って考える数学的発想が面白かった。次の文章に端的に表されている。
自分自身が、あるいは自分の考えが単に選択されなかったとしても、それは自分自身あるいは自分の考えの善悪には無関係である。その辺を誤解して「自分はダメだ」「自分は誰にも相手にされない」などと言って、自分自身を苦しめている人が何と多いことであろうか。自分自身あるいは自らの考えが選択されるときも必ずある。そのときを待てるか待てないかだけなのだ。
また著者は80年代後半以降どかどか設置された「人間、文化、情報、環境、国際、総合などの単語を二つ並べたいわゆる学際学部」についてもコメントを寄せている。18歳人口激減期対策として入試科目を減らしたため、入試ランキングだけは必ず高い位置にある人気先行の学部の先行きの不透明さを指摘する。慶応大学の環境情報学部、早稲田大学の人間科学部が象徴的であろう。
そこで著者は二つの新学部を提案する。一つは今後の統計学の発展や統計調査会社の要請を鑑み、計量経済学、計量政治学、計量文献学を専門とする「統計学部」の設置である。もう一つはISBNコードや通信技術などの「符号理論」とインターネットなどの秘密保持の技術である「暗号理論」の研究・教育を主目的とする学部である。確かにこれらの学部は完全なる産学協同路線上のものであるが、中身のない大学・学部にだまされるよりはよっぽど社会的に意義があろう。