平松茂雄『中国軍事力』(文春新書1999)を読む。
現代中国関係の新書をここしばらく何冊か読んできたが、政治、経済、軍事など範囲を拡げて数冊読む事で中国の抱えるダイナミズムの概要がおぼろげながら理解出来るようになった。毛沢東やとう小平、江沢民といった中共の政治的指導者個人を分析しても中国は見えて来ない。朝鮮戦争後、常に台湾、ロシア、米国(日本)の3国との軍事的緊張の中で、政治や経済の方針が立てられてきた歴史を緻密に分析していくことで、今後の東アジアにおける平和を占うことが出来るであろう。
これまでの日本の反戦運動は共産党や社民党、労働組合、学生団体といった一定「左翼」勢力を中心に取り組まれてきたため、共産主義国家の軍事力は資本に対抗するための必要悪だという認識がなされてきた。1963年には、米英ソ3国が「部分的核実験停止条約」を結んだが、これに対して中国共産党は「超大国の核独占だ」とし、「アメリカの核は強盗の武器だが、社会主義国の核は防衛の武器だ」と反対した。この中国共産党の方針に追随した日本共産党は、党内で異論の声をあげる中野重治や佐田稲子らを除名し、日本の反核運動に分裂をもたらしたことは銘記しておくべき問題だ。
中国には今もって明らかに、中国の同化力のおよぶ範囲こそが世界であり、1840年のアヘン戦争前の清最盛期の領土が本来の中国であるといった「失地回復主義」ともいうべき考え方が強い。それ故に中国の「戦略的境界」は台湾を越えて、東シナ海、南シナ海にまで拡大の歩を止めることはない。そうした中国の膨張の流れを分析していくにあたり、その背景にある中国とロシアの軍事緊密化の流れに常に批判の目を向けていくことがまず必要であろう。