岡沢憲芙『スウェーデンの挑戦』(岩波新書 1991)を読む。
今日から少しずつ勉強を始めるも全く集中できず。とりあえずデンマークのバンク・ミケルセンにより提唱され、スウェーデンのベングト・ニリエにより世界中に広められた「ノーマライゼーション」について流れを押さえようと一冊本を読んだ。
しかし、残念なことに福祉についての記述はあまりなく、「人権・平和・福祉」を拡充発展させてきた社民党の議会政治の手腕と労使協調路線の実態の説明に終始していた。スウェーデンでは、議会においても労使交渉においても徹底した議論による「妥協主義」が貫かれており、さらに、福祉重視主義という国民のコンセンサスが一致しているので、極めてプラグマティズムな政治が展開されているという。筆者の言葉を借りれば、スウェーデンの社会建設技法は次のように表現される。
生産過程は資本主義的競争原理で高い生産性を維持しながら、分配過程は社会主義的な平等原理で徹底的な所得再配分をする国。その意味で社会主義と資本主義の「中間の道」もしくは、純社会主義でもない純資本主義でもない「第三の道」。労働市場政策を産業政策と連動させ、巧妙に産業構造の転換を実現した国。「福祉か成長か」の二者択一論から「福祉も成長も雇用も」論に挑戦した社会工学の実験室……。
残念ながら、今年の9月の選挙で、長らく続いた社民党政権が崩壊し、右派中道連合政権が勝利し、フレデリック・ラインフェルトという41歳の若い首相が誕生した。規制緩和や国営企業の民営化、失業保険の削減など福祉政策の見直しに着手するとのことだが、「政権担当能力がない」と揶揄されてきた自由主義勢力が、世界で最も強固な労働組合との交渉の中で、どのような手腕を見せるのか。官僚主義に毒されているスウェーデンの福祉政策の改革を進め、新たな福祉国家としての理想像を描いてほしいものだ。