地理」カテゴリーアーカイブ

「BONSAI輸出に『可能性』」

本日の東京新聞朝刊の埼玉中央版に,EU向けに年間1万鉢以上輸出されている埼玉の盆栽であるが,今年2月に発行した日本とEUの経済連携協定(EPA)による関税撤廃で,更なるマーケットの拡大が見込まれるとの記事が掲載されていた。ガーデニング文化のあるヨーロッパでは盆栽人気が根強いという。

日EU・EPAは,自動車や工業製品,チーズなどの食料品,ワインなどのアルコールといった商品にばかり注目が集まっていたが,まさか盆栽が成長が見込まれる輸出品になるとは。

「プラごみ減『バンコク宣言』」

本日の東京新聞朝刊に,東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会談で,法規制強化を盛り込んだ海洋ゴミ問題に関する共同宣言で合意に達したほか,ミャンマー政府によるロヒンギャへの迫害や,中国による南シナ海の軍事拠点化について論議されるとの記事が掲載されていた。

以下,外務省のホームページより

ASEAN(東南アジア諸国連合)とは
東南アジア10か国から成るASEANは,1967年の「バンコク宣言」によって設立されました。原加盟国はタイ,インドネシア,シンガポール,フィリピン,マレーシアの5か国で,1984年にブルネイが加盟後,加盟国が順次増加し,現在は(ベトナム,ミャンマー,ラオス,カンボジアを加えた)10か国で構成されています。2015年に共同体となったASEANは,過去10年間に高い経済成長を見せており,今後,世界の「開かれた成長センター」となる潜在力が,世界各国から注目されています。2017年に設立50周年を迎えました。

ここ2,3年,EUやNAFTAの解体,G7サミットやTPPの停滞とは対照的に,ASEANの元気の良さが目立つ。域内に人口2億6千万人のインドネシア,1億人のフィリピン,9千万人のベトナム,7千万人のタイを抱えており,ASEAN主導でインド洋から太平洋へ繋がる地域協力体制が構築されて行くのだろうか。今後とも政治だけでなく,経済,文化,軍事,環境に至るまで目が離せない地域であることは間違いない。

ちなみに,私が予備校時代に習ったASEANの覚え方は,「胸むなに汗あん,死因はフィリピンの大麻(67アセアン,ンガポール,インドネシア,フィリピンタイレーシア)」である。25年以上も前の内容なのに,なぜか忘れないんだよね。

 

「ナスカ地上絵 3点の鳥特定」

本日の東京新聞夕刊にナスカの地上絵に関する記事が掲載されていた。
南米ペルーの地上絵は紀元前2世紀から8世紀にかけて栄えたナスカ文明の時代に描かれたものと推測されている。
歴史ロマンはさておき,地理選択者は,なぜ2000年近くも地上絵が残されていたのかという疑問を大切にしてほしい。少し見にくいが以下がナスカ周辺の雨温図である。ナスカは砂漠気候(BW)に属し,寒流のペルー(フンボルト)海流の影響を受けて,ほとんど雨が降らない。年平均降水量はたったの4mmであり,降雨によって土が流されたり,植物や動物によって荒らされることがない。そうした好条件(?)が重なって,ナスカの地上絵が残されたのである。記事にあるように雨乞いを目的にペリカンを描いたというのも納得である。

なお,地理的に補足すると,寒流が沿岸を流れる地域では,海上近くの空気が冷やされ,上昇気流が起こらないために、雨が降りにくくなる。特に地球上で最も強い寒流であるペルー海流が流れる地域は乾燥度が強くなる。ペルーの南にあるチリのアタカマ砂漠や,アフリカ南西部のナミブ砂漠も合わせて覚えておきたい。また,エクアドル沖合のガラパゴス諸島も赤道直下に位置するが,やはり寒流の影響で降雨は少なく,イグアナやゾウガメなどの乾燥に強い生き物が誕生している。世界の海流の地図もすぐにイメージできるようにしておきたい。

 

「山形県沖地震 ひずみたまる「集中帯」で発生」

本日の東京新聞夕刊より
昨夜山形県村上市で震度6強を記録した地震は,新聞の図で説明すると,オホーツクプレート(教科書では北米プレート)とアムールプレート(同ユーラシアプレート)の境界線で発生している。東日本大震災の報道でも明らかになったように,太平洋プレートがオホーツクプレートの下へ沈み込む「狭まる境界」の方は解明がかなり進んでいる。一方,フォッサマグナ西縁の糸魚川・静岡構造線に繋がるアムールプレートとオホーツクプレートの境界線は,まだ未確定のままである。「逆断層型地震」が発生していることから,「狭まる境界」の範疇と考えてよいのだが,海溝や地層の褶曲といった明確な地形の変化が観測出来ていないので,記事ではひずみという言葉で表現されている。

教科書のプレート分布地図を見れば分かりやすいのだが,太平洋の東側チリ沖に,地中からのマントルが東西にわき出る「広がる境界」の東太平洋海嶺がある。その西側に位置する太平洋プレートは年間5〜10cmの速さでユーラシアプレートやフィリピン海プレートに向かって移動している。太平洋がどんどん西に向かっているので,約1億年後にハワイと東京は陸続きになるというこぼれ話があるが,それほどの圧力が日本海溝と伊豆・小笠原海溝にかかっていることを考えると事態は深刻だ。いくらプレートの研究が進んだところで,プレートの動き自体を止めることは出来ない。せいぜい境界線付近の観測点の測量データから,地震が近いことを予想するだけである。

地理は地球の「理(ことわり)」を明らかにする学問のなのだが,こと地震大国日本では,地球に対する敬虔な「畏(おそ)れ」を学ぶ「地畏(ちい)」としたほうが良いのかもしれない。
どうですか? 「地畏A」「地畏B」という科目名は。

「フェーン現象+山肌の熱=猛暑」

本日の東京新聞夕刊に,昨年7月23日に埼玉県熊谷市で41.1度の国内観測史上最高気温となった原因に関する記事が掲載されていた。
地理の授業では「気温の逓減率」と「飽和水蒸気量」の簡単な計算を用いた説明しかしないが,実際は,太平洋高気圧の張り出しや山肌からの熱の上昇など,様々な要因が絡んでくるということが理解できる。

ちなみに「気温の逓減率」とは,標高が高くなればなるほど気温が下がることである。100m上昇するごとに,平均して0.65度下がる。
話し向きは変わるが,伊勢物語の東下りの章段で,昔男一行が京都から駿河に下る折に,5月の下旬だというのに富士の頂きには雪がたいそう残っている様子を目にする場面がある。そこで,昔男は有名な「時知らぬ 山は富士の嶺 いつとてか 鹿の子まだらに 雪の降るらむ」との和歌を詠むのだが,もし在原業平が地理の勉強の中で「気温の逓減率」を理解していたならば,「時知らぬ〜」の和歌は生まれなかったかもしれない。

富士山は標高3,776mなので,単純計算で海抜0m地点より25度も低くなる。5月(さつき)と言っても,新暦に直すと現在の6月下旬,昼間の気温は当時25度くらいであろうか。あくまで予想であるが,富士山の頂上付近は高い時間帯でも0度なので,雪は早々に消えることはない。

なお,この気温の逓減率は,南米ボリビアの首都ラパスでも説明される。ラパスは標高3600mで,富士山とほぼ同じ高さに位置する。ケッペンの気候区分(正確にはケッペン自身がさだめた区分ではない)で言うと,H(高山都市)である。ラパスは赤道付近の熱帯地方にあるが,平地に比べ20度以上も低く,年較差もほとんどないので比較的過ごしやすい。

また,「飽和水蒸気量」とは,気温が下がれば下がるほど,空気中に含まれる水蒸気の量が減少することである。「気温の逓減率」と合わせて考えれば,日本海の水蒸気をたっぷりと含んだ大陸からの冬の季節風が,日本の険しい山肌を超えている際に,日本海側に大雪をもたらすことが理解できる。