8月1日付東京新聞朝刊「こちら特報部」に、文科省とスポーツ庁が東京五輪・パラリンピックのボランティアへの学生の参加を促すため、全国の大学と高等専門学校に授業や試験期間について「適切に対応」するよう求める通知を出したことへの疑問のコラムが掲載されていた。
五輪開催中に10万人を超える規模のボランティア活動に学生が参加できるように、大学に日程調整を求めており、既に首都大学東京や国士舘大学では授業や試験日程の変更を決定している。
こうした状況について、7月22日に東京・渋谷での五輪返上を訴えるデモに参加した一人、一橋大の鵜飼哲名誉教授は次のように案じる。
最近は東京五輪の開催について、反対という声が言えない空気が色濃くなっている。その同調圧力が怖い。全国の大学や高専に五輪ボランティアを学事暦に優先するような通知を出すのは、戦中の「学徒動員」を想起させる。五輪の経済効果を32兆円とはじく一方、若者を炎天下でただ働きさせることの異常さを無視ししている。
労働力も資金も資材も五輪のために奪い、福島の復興を妨害しているのに、福島から聖火ランナーをスタートさせる。被災地の人々は、そうした「支援」に「感謝させられる」。現政権は原発事故の悲惨を隠し、改憲を済ませ、天皇も代替わりした新生国家をアピールする場としての東京五輪をイメージしている。
このまま進んでいけば、20年東京五輪は間違いなく、かつてのベルリン・オリンピックにもっとも近い五輪になるだろう。
ファシズムに詳しい京都大の池田浩士名誉教授の著した「ヴァイマル憲法とヒトラー」などによれば、1933年に誕生したナチス政権は「自発的労働奉仕(ボランティア)」を推奨した。自国が窮状から脱出するには国民の社会貢献精神の発揮が必要と説かれ、青年らは次第にそれを義務であるとともに、誇りを感じるようになったという。
これは後に「帝国労働奉仕制度」として義務化される。この労働奉仕により、アウトバーン(高速道路)やオリンピック・スタジアムが建設された。さらに、この労働奉仕でもうけた土木建設業や重工業産業は正規労働者を多く雇うようになり、一時は4割を超えていた完全失業率は激減、政権への求心力を高めた。強制や抑圧ではなく、人びとの自発性や社会性に基づく奉仕を通じ、民族共同体への帰属意識を強化した点が特徴だという。