『李陵・弟子・名人伝』

中島敦短編集『李陵・弟子・名人伝』(角川文庫 1968改版)に収められた『李陵』と『弟子』『名人伝』の3編を読む。
ちょうど現代文の授業で教科書の「安定教材」として殊に有名な『山月記』を扱っているので手に取ってみた。
『李陵』では、漢の時代に北方異民族の匈奴を相手に勇戦しながら、敵に寝返ったと誤解された悲運の将軍李陵と、その事件が原因で宮刑(男性の下腹部の切除)に処される司馬遷の心境が丁寧に描かれている。また『弟子』ではあくまで国家を中心に据えて道を説く孔子と、孔子に敬服しながらも国家の論理に圧殺されてしまう個人の正義感にこだわる子路の生き様を描く。
どちらの作品も、人生や社会はこうあるべきだという個人の倫理観と現実の衆愚社会の軋轢の中で、自分の信じるべき理想や生き方が受け入れられない不安を題材としていおり、読みごたえのある小説であった。
『山月記』と合わせて高校生に読ませたい作品であるが、古代中国を舞台にしているというだけで現代の高校生には「畏怖嫌厭の情」を起こさせてしまうかもしれない。こうした作品の面白さをあますところなく伝える力を磨いていきたいと思う。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください